悩みや心的症状が新しい人生の創造の源

悩みとか心的症状をきっかけに、心の内・外で起きてくる出来事をカウンセラーと共に観察していくと、心が悪循環する固定的パターンを何度も何度も繰り返していることが明らかになります。しかし、この悪循環パターンの発見が新たな心の変容のきっけともなります。

心は、普段、2つの顔をもっているかのように振る舞っています。2つの顔とは、「内面」と「外面」です。

心を内面に向かって観察していくと、心が意識から無意識にわたる多層性をもっていることに気づきます。深層方向に向かって、個人的無意識層、家族的無意識層、社会・文化的無意識層、生物学的無意識層とでも呼べるような重層的構造をもっているようです。構造といっても固定的にあるというより、状況に応じて臨機応変にいろいろな層が影響するといった方が実態に近い表現かもしれません。挨拶の仕方ひとつとっても、外国人からみれば、日本人は日本人らしく無意識のうちにペコペコしたお辞儀をしているものです。

一方、心を外面方向に向かって観察してみると、家族と関係する次元、学校や社会と関係する次元、民族や国と関係する次元、倫理や宗教などスピリチュアルなものと関係する次元などの多次元性をもっていることに気づきます。それぞれの次元において、どのように自己や世界との関係を認識しているかによって、心の振る舞いも異なってきます。「人など誰も助けてくれない。どうせ全部自分の責任さ」という考えをもっているか、「人は信頼に値するし、いざとなれば誰かが助けてくれる」という考えをもっているかは、日頃の他者や社会に対する生き方の違いとなって立ち現れてきます。

実は、頑固な悩みとか心的症状は、心の多層多次元にわたって固定的な悪循環パターンをもっているようです。この固定的な悪循環パターンが、自己と世界の一致を求めて心が変容していこうとする自然なプロセスを疎外しているわけです。そこで、このような場合には、どの層やどの次元でもよいので、また、たとえどんなに小さな変容でもよいので、悪循環パターンからの脱出を可能とするような道をクライエントとカウンセラーが模索し続けることになります。そして、たとえ小さな変容でも、ある次元・ある層でそれが発見されたならば、その最初の小さな適切な変容を、あたかも赤ん坊を育てるように丁寧に増幅・拡充していきます。すると、小さな変容の増幅・拡充の積み重ね作業は、やがて悪循環パターンで固定化・停滞化してしまっている他の層や次元に影響しだし、その後、心全体の変容につながっていきます。

悩みや心的症状が比較的軽い場合は、ひとつの悪循環パターンの変容で、多次元多層にわたる変容がごく短期間に起きるように思われます。
カウンセリングを通じて、こうした事実に日々出あっていると、心とは実に不思議な可能性を秘めているものだと思い知らされます。

特に悩みや症状・問題行動が、新しい人生の創造の契機となるのは驚きです。しかし、素直に心を観照してみれば、心とは、自己と世界の一致を求めているところに常に働いていることに気づくものだけに、むしろ当然のことといえるのかも知れません。                                    (室長 定森 恭司)