過去を過去のものとする

強い外傷体験をもつ人たちは、抑圧・解離してきた過去のエピソードを想起するときを迎えると、あたかも過去が、今・現在であるかのような語り口や仕種となります。

そこで、トラウマ・セラピーでは、過去の出来事が、現在からみて、過去の出来事としておさまりがつくように、現在をサポートし続けることになります。

強いトラウマを背負っている人たちは、過去の辛い体験の記憶の侵入が、現在の自分の体験を歪めたり、奪取しないようにするために、意識的・無意識的に過去の記憶の加工・歪曲・否認・隔離・抑圧など、あらゆる自己防衛をフル活動させて生き延びてきています。しかしその代償として、ある過去と類似する場所や経験を極端に回避したり、過去を想起させるような一連の出来事に対して、あたかも何もないがごとく振る舞ったり、思考や身体を一時的に麻痺させたりします。そのため、急に、今・この時を生き生きと生きられなくなったり、表情を失ったり、時間感覚を失ったり、世界にベールがかかったりしてしまいます。あたかも今・再び、同じような経験にあているかのような反応を自動的にしてしまうのです。それほど、過去の外傷体験の想起が恐怖の対象であることを物語っているのです。

そこで、トラウマ・セラピーでは、過去の記憶と体験が、面接中のクライエントに侵襲してきても、カウンセラーが圧倒されずに、しっかりと今・現在は、安全と安心できるから大丈夫だという体験を獲得できるための存在として、そこに居続けることになります。

トラウマ・セラピーのプロセスは、地獄のような世界から、この世に生還するかのような展開となります。穏やかな空気の流れ、どこともなく聞こえてくる鳥のさえずり、2人の大変な作業を成し遂げたあとの、なんともいえない気の流れが生還した人を迎え入れます。その時、過去とはっきりと決別し、生まれ変わった瞬間をもたらします。 (定森恭司)