対人関係について

ホロニカル心理学では、対人関係を、「私の意識」と「他者の意識」といった主語的関係だけではなく、それぞれがひとつのにおいて、自律に存在する「自己」と「他己」として相互交流し、ひとつの場を協働的に創りだしながら、かつ、それぞれが新たな自己(他己)に変容しながら、再び新たな場を創りあげあっている動的な関係として場の立場から捉え直していきます。

「私という小宇宙」と「他者という小宇宙」が衝突し相互包摂関係を持ちあいながら新たな宇宙(場)を形成しあっている関係として捉え直しているわけです。

「自己」と「他己」とは、ただ単に自律独立した関係ではないのです。「自己」と「他己」は、それぞれ個性的な存在でありながらも相互包摂関係のうちに、「自己が他己を包摂し新たな自己」となり、「他己が自己を包摂して新たな他己」になりながら、「新たな一つの場」を創りあっているといえるのです。

場が対人関係に影響し、対人関係に影響しているのです。

※定森恭司

自覚のための参照枠

自覚とは、「○○について意識し腑に落ちること」です。

したがって、自覚のためには、必ず「意識するもの」と「意識されるもの」の関係が介在します。

この時、「意識するもの」は自己ですが、意識する自己によって、「意識されるもの」には、「自己(自身)」と「世界」があります。

人間の場合、乳児期の意識には「自己」と「世界」の関係は未分化で混沌としていますが、発達とともに「自己」と「非自己化された世界」の間に境界ができて、両者が区別されながら「意識するもの」によって意識されるようになります。

自己は、「自己」と「世界」を意識の対象として意識するようになると、「自己」についての意識化を通じて自己自身についての自覚を深めるとともに、「自己が存在する世界」についての意識化を通じて世界についても自覚を深めることができます。そして、ついには、「自己と世界の関係」についての自覚も深めることができるわけです。

自覚について考える時、注意しなければならないことがあります。「意識するもの」が自覚を深めるための根拠をどこに求めるかです。

自覚のための根拠は、実在するものに求められなければなりません。実在するものに根拠を求めず、ただ考えだされた論理や空想を根拠にした時は、ただの妄信といえます。

実在するものとは、自己と世界の瞬間・瞬間の出会の直接体験といえます。瞬間・瞬間の直接体験が実在するもののすべてを包摂しているのです。

自己は、「自己」と「世界」がせめぎあいながらも「自己」と「世界」が同一にある直接体験を通じて、自己自身と世界が確かに存在すると実感しているのです。

「自己」と「世界」が時々刻々と生成消滅を繰り返している場所に、自己と世界が確実に実在しているのです。自己は直接体験を通じて、この事実を実感し自覚することが可能なのです。

こうした理由から、自覚の根拠は直接体験の実感に求めなければならないといえるのです。

実感なき自覚は妄想です。真の自覚は実感に基づくものでなくてはなりません。
(定森恭司)

神から自我へ 自我から自己へ

西洋は神から自我への覚醒が歴史をつくった。しかしこれからは、自我から自己への覚醒の歴史をつくる必要ある。

この点、もともと東洋は無我が自己であり、無我から自我を確立していくことが歴史をつくった。しかしこれからは、自我から再び自己を回復する歴史をつくる必要がある。
 
自我から自己の覚醒の課題を背負っているのが西洋で、自我から自己を回復する課題を背負っているのが東洋の課題といえる。 
  (定森恭司)

場からの心理学の再構築

これまでの心理学を、物理的現象と心的現象が生成消滅することによって、自己と世界が立ち顕れててくるの立場から心理学を再構成することが重要と思われます。

<場とは>
・面接の場とともにクライエントが生きている生活の場を含みます。
・場には、あらゆるものが含まれます(存在と無、意識から無意識なるものまで、物理・生物・社会・歴史・文化・思想・宗教に至るまで)。
・刻々と変化する自己と世界が触れあう生きる場において、さまざまなこころの現象が
立ち顕れてきます。瞬間・瞬間、場において新たな自己と世界が創発されています。
自己の立場からみた時、自己にとっての意識野が場にあたります。場からみれば場が自己を通して自己に映されたものが無意識を含む意識といえます。
・物理的現象と心的現象が立ち顕れてくる場とは、東洋では、空、哲学的には絶対無と言われてきました。科学的には「量子化された場」の概念が類似するのかも知れません。
・場から生起してくる心的現象と物理的現象が、自己と世界を形成し、自己にとっては、多層多次元なこころの現象となって顕れてきます。
・場における自己と世界の一致の体験が適切で新たな観察主体と観察対象の変容をもたらし、この体験が新たな生活の場でのより適切な関係の構築を促進します。
・場において自己と世界の一致と不一致体験が繰り返され、適切な自己ならば自ずと自己を自己と世界が一致する方向に向かって自己を自己組織化します。
・場の立場からすれば、カウンセラーが直接クライエントと面接する機会がなくても、クライエントが生きづらさを感じている生活の場にカウンセラーが働きかけられることが出来たならば、場の変容がクライエントのより生きやすい人生の発見・創造に寄与することが可能となります。

<“こころ”への多様なアプローチの捉え方>
場から立ち顕れてくる現象に対する観察主体と観察対象の関係の複雑化が、多層多次元な心的構造を形成していきます。したがって “こころ”に対する既存の多様な理論やアプローチの違いも観察主体と観察対象の差異として記述していけば統一的に理解可能な道が開かれます。

<自己と世界及び直接体験と場の関係>
・自己と世界の触れあいの直接体験には、空間的にも時間的に生起する現象のすべてが包含されていくとともに、自己自体が場によっても包摂されていきます(自己と世界のホロニカル関係)。
・場である世界なくして存在する自己の概念は、考え出された自己であって実際には存在しません。自己は世界内存在として必ず存在します。西田幾多郎が指摘するように、「経験があって個人があり、個人があって経験があるのでない」のです。人間の意識中心主義に陥ると、場を忘れて、あたかも自己が世界から独立してあるかのような錯覚をもってしまうのです。
・場に包摂され場を包含していく直接体験を、自己がどのような観察主体からどのように観察しようとすかの違いによって、さまざまなこころにまつわる現象が立ち顕れてきます。
・場において自己は、世界から変容を迫られつつも自己は変容を迫りくる世界に対して能動的に働きかけることができます。
・場を自己の立場から見るところに、自己はこころの働きを実感します。
・自己は、直接体験の直覚を通じて、自己と世界ができるだけ一致する方向を求めて自己自身を自己組織化しようします。
・場における観察主体と観察対象の関係の複雑化は心的構造の多層多次元化を促進します。

意識の心理学から場の心理学への転換
・これからは、意識の主体から場を捉えていたホロニカル・セラピーから、意識の主体の立場を含んだ場の立場からホロニカル・セラピーを含むホロニカル・アプローチを再構成していきます。
・自己と世界の出会う場(面接の場やクライエントが生きている過去・現在・未来を含む生活の場を含む)からホロニカル・アプローチを探究していきます。
・場の立場からすれば、カウンセラーが直接クライエントと面接する機会がなくても、クライエントが生きづらさを感じている生活の場にカウンセラーが働きかけられることが出来たならば、場の変容がクライエントのより生きやすい人生の発見・創造に寄与することが可能となります。
・面接の場におけるクライエント/カウンセラー関係の一致・不一致体験の反復の中で、より両者が一致する方向に信頼関係が深まる時、クライエントの観察主体と観察対象(自己や世界)との関係も両者がより一致する方向に向かった変容が可能となります(血肉化する)。
・観察主体と観察対象をめぐって、自己と世界の不一致体験が累積すると、さまざまな心的症状や心的問題となります。
・生きづらさを実感している場合に実感と自覚を伴う変容のためには、場における一瞬・一瞬に創発されてくる自己と世界の一致の直接体験を基盤とすることが大切となります。
・面接の場での自己と世界の一致の直接体験の累積が、クライエントの観察主体と観察対象のよりよき変容を自己組織化し、クライエントの生活の場での生きやすさにつながっていきます。
・心に対する各理論や技法は、直接体験に対する観察主体と観察対象の差異の全体を、より統合的視点から俯瞰することができれば、同じ直接体験に対する差異として従前の臨床の智慧を生かすことが可能となります。
・ホロニカル・アプローチでよく行う外在化は、自己と世界の関係を安全で安心できる面接の場での無限の俯瞰によってもたらされるクライエント/カウンセラー関係の一致の体験が基盤となり、新たなクライエントとのこころの内・外にわたる対象関係の自発自転的な変容をもたらします。
・ケースの終了は、症状の消失や軽減ではなく、いつまでも支え続けることでもなく、クライエント自らが適切で新たな観察主体と観察対象の関係を再構築するか、適切で新たな自己と世界との関係を持ち始めクライエント自らがカウンセラーから離れて生きる覚悟をもてるようになった時といえます。
・ホロニカル・アプローチでは、治療とか、直すとか、解決とか、洞察とか、分析とか、受容とかいう視点の基盤として、クライエントが自己と世界とどのような態度で向き合うと、より生き易い道が発見・創造できるかをカウンセラーも共同研究的な姿勢で協働する関係を構築することがまずはすべての土台になると考えます。
・観察主体と心的症状や心的問題を観察対象としている時の両者の関係自体が変化しないことには変容が見込めない場合には、別の視座からの俯瞰(無限の俯瞰)する場が必要になります。
・観察主体と観察対象の関係の自発自展が阻害されている時は、阻害されている観察主体と観察対象の関係自体を、異なる観察主体から観察したり、異なる対象を観察対象とすることで、より生きやすい新たな人生の道が自ずと発見・創造されます。
・ある心的症状やある心的問題は、多層多次元にわたる自己と世界をめぐる悪循環パターンを内包しているため、面接の場でも反復されるが、面接の場でもしある層やある次元の観察主体と観察対象の関係の変容が起きれば、それは他の層や次元の変容につながります。
・頑固な心的症状や心的問題ほど、こころの多層多次元にわたる観察主体と観察対象の関係において悪循環パターンが見られ、その場でも再演されます。
・適切な観察主体が成立すればするほど、クライエント自発自展的に変容する可能性を獲得していきます。
・観察主体が脆弱なクライエントの場合は、適切な観察主体の成立を促進する場が必要です。
・ホロニカル・アプローチで実施される俯瞰において、もっとも大切なことは、クライエントの生きている場が少しでも安全で安心が体感されることを優先するです。
・窮極的ともいえる無限の俯瞰では、観察主体と観察対象との関係が絶対矛盾的自己同一となります。
(定森恭司)