苦悩は創造の契機(1):新しい人生の発見・創造

悩みとか心的症状をきっかけに、“こころ”の内・外で起きてくる出来事を支援者と共に観察していくと、悪循環する固定的パターンを何度も何度も繰り返していることが明らかになります。しかし、この悪循環パターンの発見が新たな“こころ”の変容のきっけになります。

“こころ”は、普段、2つの顔をもっているかのように振る舞っています。「内面」と「外面」です。

“こころ”を内面に向かって観察していくと、“こころ”が意識から無意識にわたる多層性をもっていることに気づきます。深層方向に向かって、個人的無意識層、家族的無意識層、社会・文化的無意識層、生物学的無意識層とでも呼べるような重層的構造をもっているようです。構造といっても固定的にあるというより、状況に応じて臨機応変にいろいろな層が影響するといった方が実態に近い表現かもしれません。

一方、“こころ”を外面方向に向かって観察してみると、家族と関係する次元、学校や社会と関係する次元、民族や国と関係する次元、倫理や宗教などスピリチュアルなものと関係する次元などの多次元性をもっていることに気づきます。それぞれの次元において、どのように自己や世界との関係を認識しているかによって、“こころ”の振る舞いも異なってきます。「人など誰も助けてくれない。どうせ全部自分の責任さ」という考えをもっているか、「人は信頼に値するし、いざとなれば誰かが助けてくれる」という考えをもっているかは、日頃の他者や社会に対する生き方の違いとなって立ち現れてきます。

実は、頑固な悩みとか心的症状は、“こころ”の多層多次元にわたって固定的な悪循環パターンをもっています。こうした反復強迫的な悪循環パターンが、自己と世界の一致を求めて“こころ”が変容していこうとするプロセスを疎外しているのです。

従って、反復強迫的な悪循環を発見した場合には、どの層やどの次元でもよいので、また、たとえどんなに小さな変容でもよいので、悪循環パターンからの脱出を可能とするような道を模索することが大切になります。そして、たとえ小さな変容でも、ある次元・ある層でそれが変容が可能になったならば、その最初の小さな適切な変容を、赤ん坊を育てるように丁寧に増幅・拡充していきます。すると、小さな変容の増幅・拡充の積み重ね作業は、やがて悪循環パターンで固定化・停滞化してしまっている他の層や次元に影響しだし、その後、“こころ”全体の変容につながっていくことが可能になります。

悩みや心的症状が比較的軽い場合は、ひとつの悪循環パターンの変容で、多層多次元にわたる変容がごく短期間に起きるように思われます。