場からの心理学の再構築

波 粒子 物理学

これまでの心理学を、物理的現象と心的現象が生成消滅することによって自己と世界が立ち顕れてくるの立場から再構成することが重要と思われます。

とは>
・面接の場とともにクライエントが生きている生活の場を含みます。
・場には、あらゆるものが含まれます(存在と無、意識から無意識なるものまで、物理・生物・社会・歴史・文化・思想・宗教に至るまで)。
・刻々と変化する自己と世界が触れあう場において、さまざまなこころの現象が立ち顕れてきます。瞬間・瞬間、場において新たな自己と世界が創発されています。
自己の立場からみた時、自己にとっての意識野が場にあたります。場からみれば場が自己を通して自己に映されたものが無意識を含む意識といえます。場が自己に映された自己を場所的自己と概念化しています。
・物理的現象と心的現象が立ち顕れてくる場とは、東洋では、空、哲学的には絶対無と言われてきました。科学的には、古典力学で理解されていた物理現象を”量子力学”の文脈によって説明する「量子化された場」の概念が類似するのかも知れません。
・場から生起してくる心的現象と物理的現象が、自己と世界を形成し、自己にとっては、多層多次元なこころの現象となって顕れてきます。
・場における自己と世界の一致の体験が新たな観察主体と観察対象の変容をもたらし、この体験が新たな生活の場でのより適切な関係の構築を促進します。
・場において自己と世界の不一致と一致体験が繰り返され、適切な場所的自己ならば自ずと自己と世界が一致する方向に向かって自己を自己組織化させます。
・場の立場からすれば、支援者が直接クライエントと面接する機会がなくても、クライエントが生きづらさを感じている生活の場に支援者が働きかけることが出来たならば、場の変容がクライエントのより生きやすい人生の発見・創造に寄与することが可能となります。

<“こころ”への多様なアプローチの捉え方>
場から立ち顕れてくる現象に対する観察主体と観察対象の関係の複雑化が、多層多次元な心的構造を形成していきます。したがって “こころ”に対する既存の多様な理論やアプローチの違いも観察主体と観察対象の差異として記述していけば統一的に理解可能な道が開かれます。

<自己と世界及び直接体験と場の関係>
・自己と世界の触れあいの直接体験には、空間的にも時間的に生起する現象のすべてが包含されていくとともに、自己自体が場によっても包摂されていきます(自己と世界のホロニカル関係)。
・場である世界なくして存在する自己の概念は、考え出された自己であって実際には存在しません。自己は世界内存在(場所的自己)として必ず存在します。西田幾多郎が指摘するように、「経験があって個人があり、個人があって経験があるのでない」のです。人間の意識中心主義に陥ると、場を忘れて、あたかも自己が世界から独立してあるかのような錯覚をもってしまうのです。
・場に包摂される直接体験を、自己がどのような観察主体からどのように観察しようとするかの違いによって、さまざまな“こころ”にまつわる現象が立ち顕れてきます。
・場において場所的自己は、世界から変容を迫られつつも、場所的自己は変容を迫りくる世界に対して能動的に働きかけることができます。
・場を自己の立場から見るところに、自己は“こころ”の働きを実感します。
・場所的自己は、直接体験の直覚を通じて、自己と世界ができるだけ一致する方向を求めて自己自身を自己組織化します。
・場における観察主体と観察対象の関係の複雑化は心的構造の多層多次元化を促進します。

<意識の心理学から場の心理学への転換>
・意識の主体から場を捉えていた「ホロニカル・セラピー」は、これからは「意識の主体の立場を含んだ場の立場から」ホロニカル・セラピーを含んで「ホロニカル・アプローチ」へと脱統合されていきます。
・自己と世界の出会う場(面接の場やクライエントが生きている過去・現在・未来を含む生活の場を含む)の立場からホロニカル・アプローチを探究していきます。
・場の立場からすれば、支援者が生きづらさを抱える当事者やクライエントと直接面接する機会がなくても、当事者やクライエントが生きづらさを感じている生活の場に支援者が働きかけられることが出来たならば、場の変容が当事者やクライエントのより生きやすい人生の発見・創造に寄与することが可能となります。
・面接の場における当事者・クライエント/支援者関係の一致・不一致体験の反復の中で、より両者が一致する方向に信頼関係が深まる時、当事者・クライエントの観察主体と観察対象(自己や世界)との関係も両者がより一致する方向に向かった変容が可能となります(血肉化する)。
・観察主体と観察対象をめぐって、自己と世界の不一致体験が累積すると、さまざまな心的症状や心的問題となります。
・生きづらさを実感している場合に実感と自覚を伴う変容のためには、場における一瞬・一瞬に創発されてくる自己と世界の一致の直接体験を基盤とすることが大切となります。
・面接の場での自己と世界の一致の直接体験の累積が、当事者・クライエントの観察主体と観察対象のよりよき変容を自己組織化し、当事者・クライエントの生活の場での生きやすさにつながっていきます。
・“こころ”に対する各理論や技法は、直接体験に対する観察主体と観察対象の差異の全体を、より統合的視点から俯瞰することができれば、同じ直接体験に対する差異として従前の臨床の智慧を生かすことが可能となります。
・ホロニカル・アプローチでよく行う外在化は、自己と世界の関係を安全で安心できる面接の場での無限の俯瞰によってもたらされる当事者・クライエント/支援者関係の一致の体験が基盤となり、新たな当事者・クライエントとの“こころ”の内・外にわたる対象関係の自発自転的な変容をもたらします。
・ケースの終了は、症状の消失や軽減ではなく、いつまでも支え続けることでもなく、当事者・クライエント自らが適切で新たな観察主体と観察対象の関係を再構築するか、適切で新たな自己と世界との関係を持ち始め当事者・クライエント自らが支援者から離れて生きる覚悟をもてるようになった時といえます。
・ホロニカル・アプローチでは、治療とか、直すとか、解決とか、洞察とか、分析とか、受容とかいう視点の基盤として、当事者・クライエントが自己と世界とどのような態度で向き合うと、より生き易い道が発見・創造できるかを支援者も共同研究的な姿勢で協働する関係を構築することがまずはすべての土台になると考えます。
・観察主体と心的症状や心的問題を観察対象としている時の両者の関係自体が変化しないことには変容が見込めない場合には、別の視座からの俯瞰(無限の俯瞰)する場が必要になります。
・観察主体と観察対象の関係の自発自展が阻害されている時は、阻害されている観察主体と観察対象の関係自体を、異なる観察主体から観察したり、異なる対象を観察対象とすることで、より生きやすい新たな人生の道が自ずと発見・創造されます。
・ある心的症状やある心的問題は、多層多次元にわたる自己と世界をめぐる悪循環パターンを内包しているため、面接の場でも反復されるが、面接の場でもしある層やある次元の観察主体と観察対象の関係の変容が起きれば、それは他の層や次元の変容につながります。
・頑固な心的症状や心的問題ほど、“こころ”の多層多次元にわたる観察主体と観察対象の関係において悪循環パターンが見られ、その場でも再演されます。
・適切な観察主体が成立すればするほど、当事者・クライエントは自発自展的に変容する可能性を獲得していきます。
・観察主体が脆弱な当事者・クライエントの場合は、適切な観察主体の成立を促進する場が必要です。
・ホロニカル・アプローチで実施される俯瞰において、もっとも大切なことは、当事者・クライエントの生きている場が少しでも安全で安心が体感できることです。
・究極的ともいえる無限の俯瞰では、観察主体と観察対象との関係が絶対矛盾的自己同一となります。