対話の時代:ポストカウンセリングマインド

カウンセリング・マインドだけによる支援の限界が明らかになりつつあります。

受容と共感をキーコンセプトとするカウンセリング以上に、意見の不一致を尊重しあいながらも、双方性のある対話によって、まったく新しい一致の関係を積極的に創発していくことを可能とするような「開かれた対話」の重要性が高まってきているのです。

相手の言葉に出来ない深い気持ちに寄りそうために、支援者が意見や助言を極力控え、ひたすら傾聴に徹し、受容・共感に心がけるような会話には、案外、双方向的なコミュニケーションが不在という落とし穴があります。

そのためカウンセリングに慣れ切ってしまった被支援者の中には、自分の話に共感してくれる支援者ばかりに依存するようになりがちです。依存が深刻な場合は、周囲の人にも支援者のように振る舞うことを求めるようになり、ほんの少しでも周囲の人が自分が期待するように振る舞わないと、憤怒しやすくなってしまうことです。支援者が理想化され、周囲の人の存在価値がおとしめられ、共感への嗜癖的依存状態が慢性化していってしまうのです。

共感的一致を理想とする人の増加は、幻想的で誇大的で万能的な理想を抱きやすくし、不一致への耐性心を逆に脆弱にするという副作用が伴ってしまうのです。

現代社会は価値の多元化と多様化が加速度的に浸透しています。こうした激動の時代にあっては、人と人の間の不一致が増幅・拡充されやすくなってきています。その結果、人は人に共感を求めれば求めるほど、むしろ不一致となる出来事に遭遇しやすくなり、何やら我慢を強いられる気分を抱きやすくなってきています。

価値の多元化・多様化の時代にあっては、お互いの常識が不一致となることを新たな常識として了解するほどの覚悟が必要になってきているようです。その上で、お互いがお互いの常識を打ち破るような新しい何かを発見・創造する姿勢が求められ、それを可能とするような共同研究的協働の関係構築が必要になってきているのです。

内的世界、外的世界の狭間や生きづらさを共有しながら、新しい生活スタイルを発見・創造するようなポストカウンセリングマインドともいえる新しい心理社会的アプローチが必要になっているのです。