「理念・理想」について

理念・理想というと、何か現状の逼塞感を打ち破ってくれるような革新性と自由に向かっての開放性のイメージが伴います。しかし、理念・理想が、自己にとっては、かえって現況よりも、さらなる不自由や閉塞感をもたらす場合があります。もはや自己にとって、不適切なものとなった理念・理想が、自己自身の適切な自己の自己組織化を阻む最大の要因となっている場合が、心理社会的支援の場で、結構、目立つのです。

理念・理想が弊害になってくる場合の多くは、ホロニカル心理学自己意識の発達段階でいえば、第4段階にあたる場合の人です。第4段階の自己意識は、生きるための基準が、自己が所属する社会の常識や社会規範が「既知のホロニカル主体(理)」となって、外我に内在化されています。第4段階にあっても、外我が内在化する「既知のホロニカル主体(理)」が、内我を制御・コントロールしていたとしても、自己の適切な自己組織化を促進している限り、内我には、自由さや解放感がもたらされ続けます。

しかし、外我の内在化する「既知の理(既知のホロニカル主体)」が、自己が不一致・一致を繰り返す直接体験を直覚する内我の立場からすると、次第に現実離れとなり、融通性と妥協なきものとなって適切な自己の変容を阻害する要因になる時がやってきます。

理念・理想が、再び適切な自己の自己組織化をもたらすためには、外我が内我との対話軸を形成しだす第5段階以降への移行が必要になります。外我は、自己と世界の出あい不一致・一致 の繰り返しの直接体験を直覚する内我との対話を通じて、内我とできるだけ一致する方向に新しいホロニカル主体(理)を、既知のホロニカル主体(理)を脱統合する形で、自ら発見・創造する必要が出てくるのです。こうして新たに創発されたホロニカル主体(理)が、再び、適切な自己の自己組織化を可能にすると考えられるのです。