心理社会的行為と医療行為との違い

“こころ”の苦悩に対する心理社会的支援行為としてのホロニカル・アプローチは、治療目的の医学的行為とは区別されます。違いの具体例としては、次のようなことが挙げられます。

医学的診断によって、ある診断名がついた人に対して、ある治療を行おうとする医療行為では、診断された医学的症状に焦点を絞り込み、一定のアルゴリズムを持ち、科学的に根拠のある治療とされる、いわゆるエビデンスのある治療法を選択することが望まれます。この時、診断および治療法の選択は、一般的に専門的治療に詳しい治療者側にあると考えられます。治療者は患者に対して、医学的診断と選択する治療法のエビデンスについて説明責任があり、患者の同意を得ることが重要となります。

しかし、ホロニカル・アプローチのような心理社会的支援の場における被支援者のニーズは、医療現場とはまったく異なり、課題は、“こころ”の内外にわたり、かつ多様です。その結果、医学的に同じ診断名がついた被支援者にあっても、心理社会的支援の場におけるクライエントのニーズは、ひとりひとり全く異なったものになります。その結果、支援法も被支援と支援者との共創的な対話の中で合意されたことを実施し、対応の範囲も、医学モデルでの対応と比較すれば、自ずと多様かつ多元的になります。

医学モデルにおいては、あくまで症状を診断し、その症状に対する治療行為を行うことが目的となっており、心理社会的支援における支援行為とは関係性の質も意味も全く異なるといえます。ただし、医療現場において医師の指示下で、治療を目的とする心理療法は、ここでいう心理社会的支援行為とは区別しています。

実は、医療現場における心理治療行為(心理療法を含む)と、医療現場や医療現場以外で実施される心理社会的支援行為(心理療法を含む)とは、被支援者ばかりでなく専門家の間でも混乱が見られます。しかし両者は、関係性も、見立ても、支援法も質的に異なることには留意する必要があります。この区別がされた上での併用活用は包括的支援が必要な場合には、とても有効です。がしかし、両者の区別が曖昧だと、心理社会的支援での対応が望まれる事例が、過剰に医療モデルに取り込まれたり、医学的治療が望まれる事例が、.過剰に心理社会的モデルに取り込まれたりして、最終的には、被支援者自身が混乱する要因になります。

また、よく心理相談や心理療法を行う支援者自身が「心理治療」と言う言葉を説明がないまま使用していることも、被支援者や社会に対する混乱をもたらしている大きな要因となっていると考えられます。ホロニカル・アプローチでは、「治療」という言葉は使わないようにしています。

医師が法律に基づき独占行為として行う医学的治療とは異なり、誰でも主体となることのできる心理社会的支援行為では、まず被支援者自身の主訴に支援者は耳を傾け、被支援者と支援者が共に、被支援者の当面の課題や目標を明確化し、その共有化を図ることが目的となります。心理社会的支援行為では、共同研究的協働関係を構築しながら、支援者の抱える生きづらさに対して、より生きやすい道を共に発見・創造することが、最も重要されることになるのです。