識別・判断とは

臨床心理学では、すでに識別、判断された結果だけではなく、識別し、判断しようとする行為そのものによって刻々変化する現象そのものに焦点を当てることが大切です。

“こころ”の内・外で起きてくる様々な現象の中から、いかなる出来事にいかなる態度で、どのように焦点化するかによって、心的世界は刻々変容するからです。

臨床心理学では、主観と客観を二岐させた後の主知的な個人の意識の識別・判断に立脚するのではなく、主客がまだ未分化で、そこから多層多次元にわたる様々な内的世界や外的世界が立ち顕れてくるような刻々変化する直接体験に基盤をおく必要があると考えられるのです。

そもそも私たちが何かを経験する時というものは、純粋無垢の白紙の直接体験を、客観的に識別・判断しているとは思われません。というのは、直接体験そのものには、先験的経験がすでに包摂されていると考えられるからです。私たちは、直接体験を経験してから、識別・判断しているのではなく、識別・判断の前にすでに先の経験・識別・判断が含まれていると考えられるのです。主観と客観は単純に分けることができず複雑に絡み合っていると考えられるのです。

直接体験の非連続的な連続による蓄積のうちには、これまでの最も効率的な自己照合システムが微分的にすでに凝縮されていると考えられるのです。それが識別・分析の源と考えられるのです。