内的世界と外的世界を共に扱う(3)

内的世界に対しては心理療法を行い、外的現実に対しては適切な社会資源につないで環境調整をマネージメントするといったように、内的世界に対するアプローチと外的世界に対するアプローチを単純に分けることは実践的ではありません。

診察室や面接室ではなく、日常生活で生きる人を支援しようとする限り、内的世界の変容はそのまま外的世界の変容に影響し、外的世界の変容はそのまま内的世界の変容に影響するというのが、生活の場を重視する対人援助職にある人の肌感覚です。日常生活から離れた場で、個人の内界を扱うのがセラピスト、外的世界を扱うのはワーカーといった単純図式よる色分けは理念的な考えといえます。

むしろ個人の内界ばかり扱う視点は、過剰な個人化・個人病理化の問題を孕みます。また外界ばかり扱う視点は、過剰な社会化や社会病理化の問題を孕みます。内的世界も外的世界も共に扱うという統合的視点に立つことが重要だと考えられるのです。

区分け論は、資格による利害関係がさらに拍車をかけます。内的世界は臨床心理士や公認心理師が扱い、外的世界はケースワーカーがといった棲み分け論です。しかしこうした棲み分け論は、有資格同士の利害調整の面が目立ち当事者目線が不在の論理といえます。

当事者不在の専門家中心のパラダイムによる支援の限界に直面しだした実践現場では、当事者参加型支援へのパラダイムシフトが起きています。こうした実践現場では、ますます内的世界も外的世界も共に扱うような統合的なアプローチへの志向が高まってきているのです。棲み分け論は、実践現場から遊離したアカデミズムや資格問題をめぐる社会的な利害調整の色彩が強いといえるのです。