実感と自覚(6):かけがえなき瞬間の創造

実感・自覚するとは、過去の出来事や未来への予測を、自らの自己に鏡映的に映した内容に対して、自己とは別の我(現実主体)が、何かについて内省的し、何かを付加的に知るという意味ではありません。

むしろ過去の自己の出来事を記憶し、未来を想像する自己が、すべての出来事を、「今・この瞬間の新たな出来事」として能動的に深化させ、かけがえなき瞬間として瞬間そのものを創造することです。

自己にとって自己と世界の出あい不一致・一致の出会いの非連続的連続による直接体験を、自己自身が自己の持つ統一作用によって直観的に包摂し続け、自己自身が自己と世界の一致を求めて新たな自己と世界を自己組織化していくことが実感・自覚です。

自己が自己自身と世界の出あいをより深く直感していく働きが、実感・自覚と考えられるのです。

内省・洞察・分析・共感が、知るものと知られるものの区分があってはじめて成立するとするならば、実感・自覚は、我が無我となって知るものと知られるものの区分がなくなって自己が直接体験を直に直観するときに成立するといえます。

心理学は、我(現実主体)による内省・洞察・分析・共感ばかりではなく、無我(現実主体の働きが無となる瞬間)を含む必要があると考えられるのです。