自己照合システム
自己は、複雑で変化の激しい社会的文脈に応じるために、合理的で柔軟性のあるもっとも効率的な自己言及的な自己照合システムを形成しようとします。
自己照合システムは、気分ごとに、自己(直接体験)、現実主体(我) 、ホロニカル主体(理) のもっと効率的な情報関係システムとして脳のネットワークとして構築されます。
何らかの理由で、自己照合システムが柔軟性を失い、固定的照合システムしかもたなくなると、自己組織化は停止・停滞するか後退してしまいます。
観察主体と観察対象をめぐる経験のすべては直接体験のうちに刻み込まれ、自己は、直接体験を手がかりに効率的で機能的な自己照合的システムを創りだしています。
緊張、弛緩、不安、絶望、怒り、悲しみ、空しさ、喜びなど、直接体験の抱く「ある気分」が、今後、自己がどのように振る舞うべきかを決定する自己照合システムをつくりあげていく起因となります。自己照合システムとは、「ある気分」と「あるホロニカル主体(理)」との結びつきと言い換えられます。
自己照合システムは、特定の気分が刺激となって、過去の同類の気分の刺激によって構築してきた自己照合システムが作動します。トラウマに伴うフラッシュバック現象も自己照合システムの神経学的な自動的作動といえます。
自己照合システム同士は、自律性を相互に保ちつつも相互ネットワークを形成していきます。しかし、社会的文脈によっては、自己照合システム同士の対立・矛盾が起きます。こうした時、自己は、できるだけ自己の同一性を保とうとして、異なる自己照合システムに通底するいまだ未発見の気分を自己組織化のエネルギーとして、新たな相互ネットワークをつくり出そうとします。その結果、より複雑な情緒を基盤とした、異なるホロニカル主体(理)を統合する新たなホロニカル主体(理)が発見・創造されます。
自己照合システムが作動してしまうぎりぎりまで遡れば、あるゆる気分が初動する寸前の「未発動状態」に行き着きます。“こころ”が揺らぎだし、ある気分が立ち上がってくる前の刹那は、「意識の0ポイント」(筒井筒俊彦)や、大乗仏教のいう、「空」にあたります。
もし、「意識の0ポイント」や「空」を基盤とする自己照合システムができればまさに煩悩はなくなりますが、そうは簡単にはいかないといえます。