虐待問題は、極めて歴史・文化的な問題です。子育てを、誰によるどんな責任による問題と考えるかは、時代や所属する社会の差異が深く関与してきました。
今日の日本では、子育ての第一責任は親権をもつ保護者にあると考え、虐待から子どもを守る第一責任の立場に保護者をおきます。そのため保護者がいったん社会から虐待という行為を咎められると、保護者は虐待の加害者としてレッテルを貼られ続けることになります。特に、虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)が制定されてからは、かつて児童相談所で、養護相談として扱われていた事例でも、虐待という観点から扱われるようになりました。その結果、児童福祉は、福祉警察の機能をもった児童相談所の仕事と揶揄されるようになり、児童福祉の現場は、児童相談所の職員と保護者との激しく対立する戦場となることが常態化してしまいました。
しかしながら児童福祉現場では、不適切な養育から保護者と子どもの関係がこじれたケースにあっても、①当事者参加型で、②適切な自己の発達を促進する安全で安心できる小さな局所的場を共創し、③生きづらさの問題を、当事者と支援者が共同研究的により生きやすい人生の道を発見・創造し、④地域社会によって子育てをサポートされながら当事者が問題解決を主体的に取り組むことができるような心理社会的な統合的アプローチを取れば、現行の保護主義的対策と比較して、明らかにより適切な子育て家庭支援対策としての効果があがると断言できます。問題は、まだまだそこにまで至らない様々な問題を児童福祉現場が抱えていることにあります。