虐待等、不適切な養育をしている保護者に対して、その人の保護者にあたる人の性行為(原光景)の目撃がもたらす子どもへの混乱と悪影響を対人援助職の人は意識した方がよいと思われます。原光景の目撃は、強いインパクトをもち、その後の発達において、幻想(空想)と現実の境界の混沌化・曖昧化の契機ともなりがちだからです。
幼児期の場合だと、両親からの愛の見捨てられ不安や疎外感を引きおかしがちです。いずれかの両親への理想化・同一化の時期での目撃は、ショックから絶望や理想化の反転機制としての激しい嫌悪感が沸き上がったり、両親への両価的感情に激しい揺れ動くこともあります。また、思春期ともなれば、性的興奮と性的欲求の禁止の混乱や、衝撃の否認による反動としての性的衝動への強迫的依存や過剰な回避や、不適切な異性交遊の助長などの契機になりがちです。
原光景の目撃体験は、自己史に消化・統合しにくい「異物的なの記憶」といえるのです。
フロイトは、「原光景」の目撃は事実というトーンで捉えていましたが、その後、「空想の産物」であり、「内的な欲動」の立場に転換したと言われていますが、いずれの立場でも、科学的な根拠はいまだ不明確な仮説であり、今後、検討の余地があると思われます。
しかしながら、性の営みに対する常識的な配慮に欠けた家庭環境(頻繁に相手がかわる異性交際。原光景の度重なる目撃、刺激の強い性的情報にあふれる環境、愛情対象と性の対象の区別のない混乱した愛着関係・・・)に育った子どもたちは、適切な自己の自己組織化に混乱があることは実践現場の立場からは明らかといえます。