内的対象世界の関係だけを俯瞰しても、また外的対象関係だけを俯瞰しても不十分です。適切な観察主体の構築のためには、内的世界外的世界を共に適切に俯瞰できるようになることが大切です。
構成的事例:Bとの人間関係に悩む中学生3年生のA
Aは、最近、Bが自分を避けているのではないかと感じ、そのことをカウンセラーに打ち明けます。
そこでカウンセラーは、Aを箱庭療法用の小物を使って外在化し、A4の用紙に大きな円を描いて、その中心点に置きます。次に、Aからみてクラス内で最も親友と思う人から順に、やはり小物を使ってB、C、D・・・と置いてもらいます。これにより、Aは「親友」という主観的な内的対象関係をA自身が俯瞰的に実感・自覚を深めることができます。
しかし、実際にAが教室内で振る舞っている行動は、内的対象関係と一致しているとは限りません。そこで、支援者は、A4の用紙を今度は教室と見立て、休み時間などに、実際にどのように振る舞っているかという人間関係(外的対象関係)を、AとB、C、D,の小物を使って再現するようにAに求めます(場面再現法)。
すると、Aは、普段、CやDとの人間関係の悪化を恐れ、Bよりは、むしろC、Dの3人とできるだけ仲良く振る舞っていることが明らかになります。しかし、Aの気持ちは複雑です。Aは、無理にC、Dと一見仲良く付き合っていながら、Bに嫌われていないかと気にしているのです。
しかし、Aは、B、C、Dとの内的対象関係と外的対象関係の俯瞰を通じて、内的対象関係と外的対象関係が相矛盾していることに気づきます。そしてAは、Bが自分を避けていると思っていましたが、むしろBからすれば、最近の自分(A)の振る舞いが、Aに近寄りがたい行動を取っていたことに目覚めます。Aは自分の不安を勝手にBに投影していたことに気づいたのです。
次回の面接で、Aは、明るく答えます。最近はBとも会話が再び弾むようになっただけでなく、A、B、C、Dの4人で、よく遊ぶようになったとのことでした。
内的世界と外的世界の両者を無批判・無評価・無解釈の立場から被支援者と支援者が共創的に俯瞰するというホロニカル・アプローチは、従前の技法に比較して、加速度的な変容を被支援者にもたらします。加速化の要因は、被支援者に、適切な観察主体が布置しやすいためと考えています。