心的問題に対する医療と福祉の包括モデル(試論)

心的な課題を抱える人々(身体的疾患のある場合を除く)への対応は、大きく分けて二つのアプローチが存在します。

一つ目は、医療モデルに基づくアプローチです。これは、生きづらさを感じている当事者が、診察室や面接室で専門家による診断と治療方針を受け入れ、治療を進めるものです。このアプローチは、専門家の見立てと判断に基づく治療を前提としています。

二つ目は、福祉モデルに基づくアプローチです。これは、当事者の日常生活の中で、その多様なニーズに応じた包括的な支援を提供するものです。このアプローチでは、さまざまな支援者が協力して、当事者の生活全体を見渡す形で支援を行います。

これら二つのアプローチは、一見すると似ているように見えますが、その基本的パラダイムが異なります。特に支援関係において差違があります。医療モデルでは、問題解決の主体は治療者が担うことになります。福祉モデルでは、当事者と支援者とは共同研究的協働関係が前提になります。

また、どちらのアプローチが、有効かどうかを比較検討することは、パラダイムが異なる以上無意味ですが、心理社会的な生きづらさの深刻さの度合いの差違の問題も絡み、どちらのモデルを活用するかをめぐっては当事者ばかりではなく、社会的な混乱も見られます。ある人の抱える生きづらさに対して、それは個人の抱えている病理の問題と考える人もいれば、社会的な問題と考える人もいるなど、いろいろな考え方が錯綜するのが実態です。しかし、こうした混乱の背景には、二つのアプローチを包括するようなモデルが不在であることも大きな要因としてあげられます。

このことに関して、内的世界と外的世界の両方を扱う心理社会的な統合的アプローチであるホロニカル・アプローチでは、現時点では、次のように考えています。

精神的な生きづらさには、多層多次元な問題が含まれているため、福祉モデルによる心理社会的アプローチを土台とし、その上で必要に応じて特定の症状に対して医療モデルによる治療を行うというモデルの構築を目指しています。こうした包括モデルの有効性に関しては、膨大なデターが必要でありエビデンスは弱く、実践的な経験的レベルにとどまりますが、包括モデルの方が、単独モデルよりも持続的な変容をもたらしている手応があります。また、結果的には、経済的効率性からしても費用対効果が高いのではないかと予測されます。

<包括モデル:試論>
①ニーズの把握:当事者の抱え込んでいる生きづらさに関して、当事者自身の視点や経験を尊重しながら、その背景にある多様なニーズの把握と達成見込みのある課題に関して、当事者と支援者が共同研究的協働関係を構築しながら明らかにしていきます。医療ケアによる迅速な対応が必要な場合には、③に移行します。

②心理社会的支援の実施:福祉モデルに基づく内的世界と外的世界を共に扱っていくような心理社会的支援を実施します。これは、当事者の日常生活の中で、その多様なニーズに応じた包括的な支援を提供するものです。②で③を優先させた場合にも並行して実施します。

③医療モデルの適用:必要に応じて、特定の症状に対して医療モデルによる治療を行います。これは、専門家の見立てと判断に基づく治療を前提としています。医療モデルでの対応の必要がなかった場合、あるいは必要がなくなった場合は、②を継続します。

④当事者が継続的な支援がなくとも問題解決を主体的に図れるようになったら、支援者に定期的継続的な支援を終了します。

もし当事者からの再び要請があれば、①~④を繰り返します。