新しい心理学研究方法

一般的な心理学は研究対象として、認知、行動、感情、無意識、人間関係など、特定の要素に焦点を当てるのが一般的です。しかし、これらの要素は独立して存在するものではなく、相互に影響を及ぼし合っています。そのため、一つの要素を抽出して研究することは、“こころ”の全体の理解において限界があると考えられます。

例えば、ある認知は行動、感情、人間関係など、様々な要素によって形成されています。これは他の要素についても同様です。さらに、観察主体が観察対象を特定の要素に焦点化すること自体が、観察結果にどのような影響を与えるのか、観察主体と観察対象の関係性を含めて考察する必要があります。

また、観察主体が観察対象と一体化する瞬間、すなわち観察主体が無となり観察対象と一体化する体験(ホロニカル体験)も重要な視点となります。西洋の心理学では、観察主体と観察対象の関係性を深く研究してきました。一方、東洋の伝統では、“こころ”を研究対象とするのではなく、修行や瞑想の中で自我が無となる境地を探究し続けてきたといえます。

このような観点の差異を含み、“こころ”の現象の理解を学問的に探究しようとするとき、観察主体自体が無(無我)となり、観察対象と一体化する瞬間を含む、観察対象と観察対象の無限の関係性を研究することが重要となります。そして、心理学とは、その主体にとって感じられるものとして扱われるべきであり、感じることなく論じるだけの学問ではないと考えられます。

これらの疑問から生まれた新しい心理学のパラダイムが、ホロニカル・アプローチによって創発され続けるホロニカル心理学です。観察主体と観察対象の組み合わせの差異、一致・不一致がどのような現象世界を構成するのかを、自由無礙に俯瞰することによって得られる実感と自覚に基づく心理学と言えます。

従来の心理学研究方法では、観察主体(研究者や治療者)が観察対象(被験者や被支援者)を客観的に観察し、その行動や思考、感情などを分析します。これに対して、ホロニカル・アプローチは、観察主体と観察対象の関係の差異を無限に縮める方向に向かっていく方向を含めて研究対象とします。

ホロニカル・アプローチでは、観察主体の微妙な変化ですら変化してしまう“こころ”の現象を、できるだけありのままの全体像を直観していく方向です。これは、観察主体と観察対象が一体となり、その結果として生じる現象としての適切な自己意識の発達を重視するという考え方に基づいています。

また、ホロニカル・アプローチの特徴は、従前の臨床心理学において重視されてきた洞察、分析、内省及び共感のための前提となる「適切な観察主体」の獲得を重視している点にあります。適切な観察主体の発達があってこそ、観察主体自身が自己と世界との関係性を深く理解していくことができると考えるからです。

さらに、ホロニカル・アプローチの実践では、被支援者の抱えている生きづらさに対して、一緒に悩み一緒に考えながら、より生きやすい人生の道を共創的に発見・創造していくような共同研究的協働関係の構築が重要となります。これは、観察主体と観察対象が共に問題解決のプロセスに参加し、互いに学び合う関係を形成することを意味します。

以上のように、ホロニカル・アプローチは、観察主体と観察対象の関係性に対する新たな視点を提供し、その結果として生じる現象を重視するという点で、従来の心理学研究方法とは異なるアプローチを提供しています。これにより、より深い理解と、新たな視点からの問題解決のあり方を提起しています。