社会の価値観の多様化と精神医学的診断の変化

私たちの社会は、価値観の多様化という大きな変化の流れの中にあります。これまでの社会文化における固定的な観念の絶対性が揺らぎ始め、それまでの「当たり前」が一気に崩れ始めています。この流れは、精神医学的疾患の捉え方にも影響を与えています。

米国精神医学会が発行する精神疾患の診断と統計のためのマニュアル(DSM)はその一例で、1973年のDSM-III改訂まで、同性愛は精神疾患として扱われていました。精神疾患の定義や分類は、研究者の知見の積み上げとともに、社会の価値観や認識にも影響を受けるといえます。

また最近、自閉症スペクトラム障害やADHD、ディスレクシアなどの神経発達障害を「障害」ではなく、個々の「多様性」として捉えて尊重し、その特性を社会の中に活かしていこうとするやニューロダイバーシティ(Neurodiversity、神経多様性)の運動が出てきています。この運動は、発達障害という概念をめぐる精神医学にも今後影響を与えていくと思われます。

また統合失調症の軽症化の背景にも、時代の変化が関係しているという研究が増えてきています。これは、社会の価値観の変化が、精神医学的診断の進化に影響を与えていることを示しています。

40年以上前の時代と比較すると、今日の精神医学は、私たちの日常生活にすでに深く関わり、多大な影響を与えています。そのため、今後の精神医学の動向には、医療関係者だけでなく、広く社会全体が関心を持つことがますます重要になると思われます。

 

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