
現代においては、各種の心理療法の理論や技法が、それぞれの立場から単独のアプローチの限界を認識し、多層多次元的な視点で心的症状や問題に取り組む必要性が高まっています。
各アプローチが得意とする領域において効果を発揮することは事実ですが、それぞれの心理療法が他の療法に対して優位性を競うべきではありません。異なる層や次元を扱う心理療法の効果を一律に測定できる客観的な尺度は、現時点では存在しないと考えられます。例えば、人格の変容を目的とする心理療法、心的症状の消去を目指す療法、家族関係の改善を図る療法など、それぞれが異なるアプローチを取っています。
重要なのは、各心理療法が得意とする領域での変容が、多層多次元にわたる悪循環パターンの変容にどのような影響を与えるかを包括的に見直すことのできる俯瞰的パラダイムを構築することです。このような統合的視点を持つことで、各心理療法が独我論に陥ることを防ぐことが可能となります。
例えば、子ども虐待の問題は、多層多次元にわたる要因が複雑に絡み合っています。同じ子どもXに対する虐待に関しても、観察主体と観察対象の組み合わせが異なれば、神経生理学的問題、無意識の問題、感情の問題、認知の問題、家族問題など、さまざまなレベルの問題が浮かび上がります。しかし、逆に言えば、同じ現象に対して観察主体と観察対象の組み合わせによって導き出される結果を明らかにし、それらの差異を統合的視点で俯瞰することで、各組み合わせの違いによる相互の影響をより包括的に捉えることが可能となります。
ただし、このような俯瞰は、観察主体と観察対象の関係を固定化しない自由な観察ポジションを取ることが求められます。観察対象を極小のミクロの点から極大のマクロの無限の球までとし、観察主体も極小のミクロ(ゼロポイント)から無限(∞)に至るまで、多様な視点を持つことが重要です。対人援助の実践現場では、常に、より統合的でより包括的パラダイムの構築が求められいます。