ダブルシグナル

場面再現法

親近感を抱いているかのような言葉を発しながら、身を引いていたり、「ああ、そうですか」と一見同意した反応をしながら、しかめ面などいかにも抵抗感を表情に露わにするなど、ダブルシグナルを出す人に出会うことがあります。

態度でダブルシグナルを発信しなくても、相手が、喜怒哀楽をおくびにも出さすに淡々と語る内容が、話を聴いている側には、あまりにも強烈(例:持続的で苛酷な虐待や暴力を受けてきた過去の回想など)で、聴いている側の方が激情を突き動かされてしまうこともあります。相手の失感情的な語りとは正反対に、あたかも当人が切り離している感情が乗り移ってくるかのように、聴いている側が、憤怒したり、絶望的になったり、恐怖を抱くことになるのです。相手のダブルシグナルに、対応する側が翻弄されてしまうのです。

ダブルシグナルの場合には、相反する気持ちを抱え込んで葛藤している場合と異なり、相矛盾する言動を取っていることにまったく無関心か無意識です。そのためダブルシグナルを出す人との対話は、共感不全の伴う困難な作業となりがちです。

そのためダブルシグナルの扱い方を誤ると、“こころ”の奥に潜んでいた魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界が顕在化し、対話の場が修羅場化することすらあります。

ダブルシグナルに出合った時は、相手の矛盾をついたり、解釈することは危険だと思われます。それよりも、なにげなく相手の仕草の増幅・拡充を図ったりします。例えば、「今、そうして話している時に、あなたの身体は何を感じ取っているようですか?」といった具合です。また、失感情的な相手と激情的になってしまっている自分との関係を俯瞰的に明らかにするなどの工夫を図ります。例えば、「あなたはとても冷静にお話されましたけど、すみません、私の中では、とても冷静にいられないほどの・・・という気持ちが起き上がってきてしまいました。そこで、もう一度、お話の内容を整理すると・・・」などと言いながら小物を使って、ある場面を再現するなどです。こうしてダブルシグナルとなっている出来事を共同研究的に協働しながら深めることが大切となります。