Kさんは20代前半の女性(幾つかの事例から構成した架空事例)です。彼女の15回目のセッションを事例として取り上げます。Kさんの発言は「 」で、カウンセラー(Co)の発言は< >で示します。
Kさんの主な悩みは「悩みを一人で抱え込んでしまう」ことでした。彼女の育った家族には、すぐに怒鳴る父親がいました。父親の暴言はお酒が入るとさらにひどくなり、常に親戚とも激しい口論を繰り広げていました。それでも、母親が生きている間は、Kさんは母親に守られていた記憶があります。しかし、小学3年生の時に母親が亡くなってからは、父親は不機嫌な時には罵声と否定的な言動でKさんや4つ下の弟に当たり散らすようになりました。その結果、Kさんは自分の気持ちを安心して人前に出すことができず、人の顔色ばかり窺う傾向が強まり、対人関係の緊張や警戒心が強くなってしまいました。
Kさんは大学卒業後、男尊女卑の傾向がある倉庫管理会社の事務員として入社し、資材の伝票を扱う仕事につきました。入社当初、新人歓迎会の宴席で、上司の部長に「こんなにミスの多い子とは知らなかった」と言われたことがトラウマになり、誰も守ってくれない社風に馴染めなくなってしまいました。心理相談室に来室したときのKさんの一番の悩みは、こうした職場の悩み以上に、交際中の建設会社に勤める彼氏の言動に、最近になって、とても過敏になってしまったことにありました。
D:「最近、彼氏の言葉に敏感になってしまって・・・」「ちょっとした彼の言い放った言葉にびくっとしてしまって・・」「例えば、彼に冗談で私が彼の身体に触ろうとした時に、彼に『やめて』と言われてしまうと、びくっとし、前なら、冗談を言い返せていたけど、最近は何も話せなくなってしまう」と落ち込みます。ABCモデルでいうA点固着です。そこでCoが、「いつも」の頻度の明確化を図ります。
Co:<いつもって、週に1回程度、それとも、彼とあった日には、1日に何回もびくっとするの?>
K::「彼と会った時の1日に1回は起きます。気になるのは、彼が本当に怒っているのかと思う時です」
Co:<1日に1回の割合で起きるのですね。その中でも、彼が怒っているのではないかと思うと、何もその後は言えなくなってしまう頻度は、どの程度ですか>
K::「そう言われると、10回に1回の出来事かなあ」

その後、何もいえない時は、怒鳴る父親のときと同じにように、自分があたかも石のように固まってしまう状態(トラウマ反応による麻痺反応)であることわかってきます。
Co:<そうですか。もっと頻繁に起こる現象だと思っていましたが、実際にはとても少ない体験で、それにもかかわらず、そのことにとても敏感になっていて、それがいつもという感じをKさんにもたらしているのですね>と応答しながら、<身体があたかも石のように固まるときが、たまにあるけど、そのことばかりが気になりドツボにはまっている状態なのですね>と、小物の壺とオカリナ使って、オカリナが壺の中に頭を突っ込んでいる状態をCoが外在化します。Kさんは、外在化されたドツボ状態に頷きます。
頷いたところで、固まった後にKさんが無意識のうちにとっている行為の意識化や、例外探しに焦点化し、A点に視野狭窄的になっているKさんにとってのB点構築の促進を図ります。
Co:<びくっとしたあと、どうしますか>
K:「しばらく様子をみて、怒っているかどうかみて、ああ違っていたと思うと気にしないようにしている」
Co:<なるほどね>と感心しながら支持的に応答します。そして、<するとどうなりますか>
K:「しばらくして、前のように一緒にTVをみたりして・・・」
Co:彼とKさんの関係を、そのまま小物を使って場面再現をしていきます。
K:「ええ」と、苦笑しだします。
Co:<ところで、Kさんが、しばらく様子をみて、怒っているかどうかみて、ああ違っていたと思うと気にしないようにしていられて、その後、一緒にTVをみることができる時と、本当に彼が怒っているのかあと思って過敏になって石のように固まってしまうときの割合はどれ位でしょうかね>
K:「・・・10%からいかも」
Co:<すると、10回に1回の出来事のうちの10%だから、1%になるだけど、その1%の出来事がとても気になってしまっているんですよね。最初、Kさんが、『いつも・・・』と言われた時には、Coとしては、もっと頻繁に起きるのかと思ってしまっていましたけど・・・>と、少しトリッキーに指摘します。
K:(笑いだしながら)、「ええ、そうですね。でも、それがとても気になっている」
その後、2人の間では、1%の出来事は、確かに鼻くそのような出来事だけど、気にするなと思っても、そのことばかりでいっぱいになってしまう現象として大爆笑の中で共有されます。
すると大爆笑後・・・。
K:「ドツボにはまっていますね」と、ふと自ら言い出します。Coは、ABCモデルでいう適切な観察主体C点から、視野狭窄的になってA点に固着している自分を俯瞰的に語れたと判断します。
そこでCoはABCモデルの適切な観察主体であるC点から、ドツボ状態(A点固着状態>を俯瞰できる構図をCoがつくります。その上で、
Co:「ところで、びくっとする時以外の99%のエピソードの中で、彼との間がとてもいいなあと感じた時はどんな時でしたか、ちょっと思い出してみてください>
その後、Kは、彼とのこれまでの交際の中で、沢山のよき思い出(B点)のエピソードを想起しだします。
ここからは三点法を使って、A点とB点を行ったり・来たりをしながら、A点の軽減化を図ります。しかし、1%の確率の出来事は、強烈なトラウマ記憶になっているため、彼の怒ったと感じたときの硬化した瞬間の身体感覚はなかなか三点法の中でも軽減しません。そこで彼の前で固まるときと類似の体験の想起を求めると、次第に父親に怒鳴られて、しかも逃げ場がなかった頃のエピソード記憶がトラウマ体験として想起されはじめ、彼の怒った表情に過去の父親の身体感覚を想起しだします。その時の身体感覚の想起を求めていく中で、あまりの恐怖感から驚愕反応を起こしていることが明らかになっていきます。
そこで、<怒っているばかりいる父親に、怖くて、怯えているばかりで、何もいえない状態になっているこども時代の自分に対して、今の自分が何か声をかけてあげるとしたらどうしてあげる>と今のKさんと子ども時代の恐怖から固まっているKさんとの対話法を実施します。
現在:「自分のせいじゃないよ。よくガンバッテいるね」
過去:「ほっとする」といいながら、面接時のKさん自身が、実際に過緊張状態から弛緩した状態に微妙に変化します。
Co:<じゃあ、彼の前や、仕事でミスをして部長に怒られて、もう駄目と怖がってしまっている今の自分に対しては>(といいながら今のKさんを黒色の小さなフィギアで外在化し、面接時のKさんをオカリナで外在化します。
面接時のK(オカリナ):「ミスはミスとして受けとめて。でも怖がることはない」
黒の人:「ほっとする」といいながら面接時のKさんは、さらに穏やかで安堵した姿勢に変化します。
Co:<じゃあ、彼氏に対して気にしている自分に対しては>
面接時のK(オカリナ):「怖がることはない」
黒の人:「ほっとする。気落ちが楽になる」と笑顔になります。
解説:外在化、対話法、スケール化法、無意識のうちの対処法の意識化、三点法など、ホロニカル・アプローチの技法を組みあわせて統合的に対応したセッションです。Kさんのようにホロニカル・アプローチでは、A点とB点の行ったり・来たりをしていく中で、適切な観察主体であるC点が自然に布置してきます。するとA点に固着してしまう自分自身に否定的だった被支援者は、自ずとA点固着状態に一定の心的距離をもつことが可能になっていきます。しかもA点固着状態から抜け出すことができると、B点も体験していることを実感・自覚するようになり、過剰な恐怖感が軽減化し驚愕反応も次第に弱まっていくことが可能になります。