場面再現法、対話法、心理モデル図法の組み合わせによる創作事例

車の免許を取得しようとしながら、なかなか踏み込めない事例が散見されます。そうした事例を組み合わせて、ひとつ架空の事例を創作してみました。Y(20歳、男性)の20回目の面接です。Yの発言は、「 」で、カウンセラーはCoと略記し、発言は、< >で表記。

Yは、ある面接の中で、「自動車免許は車校にもまだ行っていない。車校に申し込もうと門まで行って、なんかここは嫌だなあと思って、そのまま戻って来た」と語り出します。

場面再現法

場面再現法>を実施します。「車校の入り口まで行って、ここは嫌だなあと思った時の場面」の内的世界と外的世界を、小物を活用した場面再現法(写真)を使って再現します。

Y:「窓口を見た瞬間になんか嫌だなと感じた。一杯人がいると感じた」

入り口に立った時の印象を閉眼によって思い出すことを求めます。しばらく沈黙するY。

Co:<今、何が見えますか?>

Y:「窓口が見える。受付の女性と学生らしき男性たちが、お互い知り合いのようにしゃべっている。なんか待合いにいる人間が柄が悪そうに見える。ヤンキーみたいで…」

Coは、Yから見えている風景を実況中継風に要約しながら、<いまそうしたものを見ながらYの心や体はどんな感じになっていますか?>(内我による過去の記憶再現時の直接体験の直覚を求めます)

Y:「不安な感じになっている。背中が汗ばんでいる感じ。鼓動が少し早くなっている。その場から離れたくなっている。受付に行こうと思うけど、その場から動けなくなっている」

Co:<受付に行こうと思いながらも、動けない感じなのですね>(外我と内我の不一致状態と理解するCo)

Y:「ええ」

Co:<それでどうなっていきます?>

Y:「車校から出たけど、どうしようもないなあと自己嫌悪に陥る」

Co:<車校から出たけど、どうしようもないなあと自己嫌悪に陥っているのを見ている自分の視点はどこにありますか?>

Y:「そういう自分を下に見ている」

Co:<今見えている自分はどんな姿をしていますか?>

Y:「ガクッと肩を落としている。下を向いてうつむいている感じ」といいながら、面接中のYも肩を落とし、下向き加減になります。

Co:<ガクッと肩を落とし、下を向いてうつむいている自分を、誰か第3者のようなものを上から見ている感じなのですね。では、その第3者はどのように感じるのでしょうかね。それを感じてみてください>

Y:しばらく沈黙後、「情けないなあと」

Co:<今、下の方にガクッと肩を落とし下を向いてうつむいている自分を見ている第3者は、情けないなあと感じているのですね。さて、その第3者はどんなものに感じますか?>

Y:「自分というか、なんか違う自分が見ている。上から見ている自分というか」

Co:<すると何か上から見ているようなもう1人の自分が、下の方にいる自分を見て情けないなあと感じているのですね。そして、見られている自分は、ガクッと肩を落とし、下を向いてうつむいているのですね>

Y:うなづく

対話法 下(オカリナ)が、上(フクロウ)に向かっていう場面
上(フクロウ)が下「オカリナ)に言い返す場面

Co:<さて、上の方にいるもう1人の自分のようなものが情けないなあと感じているということを、下にいる自分が知ったとしたら、ガクッと肩を落として下を向いている自分はどうなりそうですか?>と、上から見ている自分を小物のフクロウ、下にいて見られている自分を小物のオカリナで外在化します。下となっているオカリナを面接中のY側に置き、上から見ているフクロウをCo側に置きます。対話法の実施です。

下:「じゃあ、自分がやってみろ」と、Co側にいる上(フクロウ)に向かって言います。

Co:<では、見られている自分が見ている自分に向かって、『じゃあ、自分でやってみろ』と言われたら、上の自分はどのように言いますか?>と、Co側にいた上から見る側のフクロウと、Y側にいた見られる側のオカリナの位置を180度逆にします。

上:「それができたら世話ないなあ」

下:「(さらに落ち込む)」

Co:<さらに落ち込んだ下の自分を見て上が、何か言葉を掛けたり、何かすることができるとしたらどうしますか?>(フクロウとオカリナの位置を入れ換えます)

上:「頭に蹴りを入れる」

下:(「されるがままにしている」)

Co:<されるがままになっている下を見たら上から見ている自分はどうします?>(フクロウとオカリナの位置を入れ換えます)

上:「(どうしようもないから放っておく)」

Co:「すると下は?」

下:(「そのまま帰っていく」)

Co:<もしも、下が上に向かってこうして欲しいという要求のようなものがあるとしたらなんと要求しますか?>

下:「入れ替わってくれ」

Co:<それを聞いた上は?>

上:「入れ替われるものなら代わりたい」

下:「入れ替わってくれないなら、黙ってみていろよ」

上:「(また蹴りを入れる)」

下:「(もう何も言わない)」

上:「だからおまえは駄目なんだと」

開眼の指示。

Co:<今、嫌だと感じた場面から始まって、上と下の自分の対話をしてみたけど、やってみての何か感想はある?>

Y:「いつもの自分の対話と似ている」

Co:<2つの自分を、絵にしてみるとどんな関係になりそうですか?>(サイコモデル法の導入)

サイコモデル法

別紙:頭が上の自分。首から下が下の自分。下の方がエネルギーが強いが、頭の方が下を抑えつけるようにして、情けない、だからおまえは駄目なんだと蹴りを入れたりする状態であることをYとCoは共同研究的協働関係の立場から俯瞰を共にする。

Co:<上に何か名前をつけるとしたらどんな名前をつけますか?>

Y:沈思黙考後、「倫理観かなあ。今は自分を邪魔しているけど、ずっとこれで自分を律していた」と回想しだす。また、こうした倫理観の形成には、「学校の先生や部活の先輩など、いつも目上の人に対して感じてきたもの」でもあることに自ら気づき、「そういえば、昔、女性の担任や母親から情けないなあ」と言われたようなことを想起しはじめます。

その後、面接の中心は自然な流れとして、かつては自分を律するのに役立っていたかもしれないが、今となっては、もはやただ自分を批判、抑圧するだけの古くなってしまった倫理観(ホロニカル主体:理)を内在化した頭の自分を、もっと下の頭以外と対話の中で、変容させていくものになっていって終了となりました。

 

解説:Yの自己意識の発達段階は、第4段階にあると見立てられます。しかし、第4段階の外我にあたる他律的外的現実主体は、母親や教師や先輩などの影響を受けた既知のホロニカル主体(理)としての倫理観を強く内在し、内我にあたる内的現実主体を監視・監督してきました。しかし、そうした知的な外我優位による内我の制御・コントロールだけでは、もはやYにとっては生きづらさをもたらすだけになっていたようです。その後、面接は、外我と内我との対話を通じて、外我自身が内在化してきたホロニカル主体(理)としての倫理観を新しいものに刷新していく(自己意識の発達段階の第5段階への移行)ことになり、面接は終了となりました。