「苦」と「楽」は、観察主体と観察対象の関係性によって変化するものです。
例えば、苦しみをテーマにした絵画をAさんが鑑賞した際、Aさんは自分だけが苦しんでいるのではないと感じ、絶望から救われることがあります。しかし、同じ絵画を見たBさんは、かえって自身の苦しみを深めてしまうということもあります。このように、同じ作品を見ても、観察主体と観察対象の関係性の違いによって、感じ方が異なるのです。
また、自分の苦しみに対して、誰かが共感し、その苦しみを分かち合ってくれると実感できた瞬間、苦しみが楽に転じることがあります。苦と楽は対立することもありますが、相互に包含し合う関係に変わることもあります。陰陽論が示すように、苦の中に楽が、楽の中に苦が含まれていると実感・自覚できる時もあるのです。
ホロニカル・アプローチでは、観察主体と観察対象の関係性の違いによって、苦楽を含む心的現象が変化することに注目します。適切な心理社会的支援は、支援者と被支援者の双方が「苦」から「楽」へと向かう自発的な自己組織化を促すと考えられています。支援者が苦しくなり、被支援者が楽になる、あるいはその逆の場合、適切な自己組織化は展開しないとされています。
ABCモデルにおける自己と世界の不一致による自己違和的体験のA点は「苦」を示し、自己と世界が一致するホロニカル体験のB点は「楽」に相当します。さらに、A点の苦には、陰が陽に転じるようにB点の楽が含まれ、B点の楽には、陽が陰に転じるようにA点の苦が含まれています。A点とB点は西田幾多郎がいう絶対矛盾的自己同一の関係にあるのです。この苦楽の絶対矛盾的自己同一を、支援者と被支援者が共に俯瞰することができれば、双方が自己と世界の一致に向けて、適切な自己組織化を促進できると考えられます。