ある身体感覚の増幅・拡充法
「ある身体的違和感(またはある身体的部位の異物感)」に焦点化し、カウンセラーの「閉眼でのただ観察」の指示のもと、クライエントの方自身が、「ある身体的違和感」を、ほかの視覚・聴覚・触覚・言語・イメージ・固有感覚などのチャンネルを使っての表現を促進するなどして積極的に増幅・拡充していく方法を「身体感覚の増幅・拡充法」と呼びます。アーノルド・ミンデルの身体症状へのアプローチにも刺激されて生まれたアプローチです。
身体的違和感には、過去、現在や未来の複雑に絡み合った問題が何か言葉以前のうごめくものが含まれます。それは緊張・弛緩などの身体感覚や不安や安心などの心的感覚などのすべてが渾然一体となった言葉になる以前の身体的感覚としての何かです。
違和感自体は、身体的自己の全体に統合されないままにある自律的動きを見せる異物といえます。違和感には、自己と世界との関係における、悪循環構造と相似的な反復パターンが浮かび上がってきます。
ホロニカル・アプローチでは、「ただ観察」時と、そうでない観察の時の差異の自覚をクライエントに促しながら、身体的緊張を軽減させるような方向をカウンセラーが共に模索します。
-ある身体感覚の増幅・拡充法の事例-
※以下、クライエント:Cl、カウンセラー:Coと略記。
Co:<目を閉じて、その胸のあたりの違和感を、何とかしようとせずに、ただじっと観察しつづけてみてください。そして、何か大きさ、重さ、形、色、痛みのリズムやパターンなど、何かわかってきたら、それを教えてください>
Cl:「……みぞおちあたりにモヤモヤとしたものがあって……それは灰色の雲のようなもので……ずっと胸のあたりから、食道 あたりまで……ああ、あがっていきました。……のどのところあたりにきたら、急に動きが止まり、その動きを止めようと する壁のようなものがでてきました」
※その後、この方は、このモヤモヤの移動とそれを抑制するのどのあたりの壁が、「何かいいたい感情がわき上がってきても、それを日ごろ抑え込んでしまう自分」と同じパターンであることに気づく契機となりました。