ホームシミュレーション法
家族療法的な視点から家族人形を用いて家族関係などを空間的に表現する方法を「ホームシミュレーション法」と呼びます。
家族人形を児童・生徒と教師の人形に変換すれば、学校での人間関係や対人力動を空間的に表現することができます。職場の人間関係や対人力動にも応用できます。
技法の背景には、「ある場面やある時空間の一瞬には、“こころ”の内・外にわたるパターンが包含され表現される」との考え方があります。
例えば、家族メンバー間に長く心理的な対立・緊張が持続している場合には、家族の部屋の使い方、就寝の位置、食卓テーブルでの着席位置や順序などで空間利用のパターンにも対立・緊張を象徴する相似的パターンが見られることが多いのです。
家の住まい方には、家族関係や家族力動を示す歴史や文化が表現されているのです。
ホームシミュレーションは、家に見立てた舞台の上で家族人形を配置したり、動かすことで、日頃、自分が抱いている複雑な家族関係や家族力動を俯瞰的に見つめ直す機会となります。
家族人形は、紙粘土製の数㎝の高さの立像です。人形は、祖父母、両親、成人男女、学生服姿の男女、私服の子どもの男女、赤ん坊などを使います。
食卓、机、冷蔵庫、TVやパソコンなどは、立方体、直方体、円型の積み木を使用したりします。
技法としては、
①間取り図法:間取り図の上で、家族人形を使って、食卓場面、就寝場面など、日頃の生活を再現していきます。場面再現法を、間取り図と家族人形を使って俯瞰的に再現していきます。
②対立法:家族メンバー同士の対立構造及び対立構造の時間的空間的変化を俯瞰していきます。
③階段法:積み木の階段上に家族のヒエラルキーを再現することで、家族関係を俯瞰的に見直します。
-ホームシミュレーション法の事例(間取り図法、階段法)-
ある家族への間取り図法(食卓法)、対立法、階段法の適用例です。
父親・母親・長男(12歳)、長女(8歳)、次男(4歳)の5人家族です。
父親が家族関係について振り返る場面です。
まずは間取り図的に、台所、TV、食卓を小物を使って画用紙の上に配置し、普段の食卓風景を再現(食卓法)してもらいます。食卓場面という、一見何気のない家族風景を俯瞰的に再現することで、日頃の家族関係を見直すためのよき機会とするためです。
父親は、食卓法によるホーム・シミュレーションの中で、前は次男の位置に長男の席があり、長男は落ち着きがなく、両親が一緒になってうるさく注意する傾向があったため、母親の提案に父親が同意する形で、次男と長男が席を入れ替えたことを思い出します。
食卓法で、少し日頃の家族関係を客観的に振り返ることに慣れたところで、日頃の家族がもっとも対立しやすいパターンの例示を求めます。
まず、12歳の長男(写真左)と、8歳の長女(写真右)が、実に些細なことで喧嘩を始めます。
父親は、つい8歳の長女を庇う習慣があり、父親が長女の味方をする形で登場します。
すると母親が、いつも父親は長女に甘いと、長男を庇う形で登場し、まだ赤ん坊の次男も母親にくっついてくるため結果的に長男につく形になります。
そのうち対立は、いつのまにか、子どもの育児をめぐっての夫婦の対立となり、子どもたちは欄外で仲良く遊び出します。それを見て夫婦は喧嘩をやめます。
上記事例は、対立法を通じて、誰かと誰かをめぐる家族の確執葛藤は、結局、最後には、いつも夫婦(両親)の対立となって終わっていることが明らかになったケースです。
対立法によって、家族内の緊張と緩和、対立と修正のパターンがわかりやすくなります。 日頃の家族関係を自己モニターする機会はなかなかもてないものです。対立法は、その意味では鳥瞰的構図の中で、自分と家族の関係を振り返るよき機会となります。
この事例では、引き続き階段法を利用して、家族力動を振り返っています。
階段法では、<何かの指標をイメージして、家族の順位をつけてください>と教示して実施します。
父親は、微妙な高さ調整をしながら、左の写真のような順位をつけます。基準は、「自己主張」の強さであり、この階段法を通じて、自己主張の弱い長女につい同情し長女を知らずのうちに庇っていることにあらためて気づきます。