ホロニカル・アプローチとは?

ホロニカル・アプローチとは?

 -内的世界と外的世界を共に扱う総合的アプローチ-
ホロニカル・アプローチとは、“こころ”の深層から、身体、関係性や社会に至るまで、自己(部分)⇔世界(全体)の関係を自由無礙じゆうむげに俯瞰しながらアプローチするもので、フロイトやユング、家族療法、プロセス指向心理学、システム論、ナラティブ・セラピーに加え、西洋哲学から東洋思想までをバックボーンに、生命力の溢れる情感をともなった“こころ”そのものの体験を扱っていく心理社会的支援に関する理論および技法のことです。

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ホロニカル・アプローチとは?

自己と世界は、華厳経で語られるように、一即多・多即一の関係にあり、ミクロからマクロに至る一切合切が、部分と全体の縁起的包摂関係にあります。こうした縁起的関係を、「ホロニカル」な関係と名づけました。「ホロニカル」とは、ホログラフィック・パラダイム (Wilber、 1982) やホロン (Koestler、 1978) といったニューサイエンスの影響を受けて作り出されたオリジナルの用語です。

ホロニカル・アプローチとは、
「生きづらさをもたらしている自己と世界との不一致に注目し、自己と世界の一致(自己と世界のホロニカル関係)をより深めていくような新しい生き方を発見・創造していくことを支援する心理社会的支援法」のことです。ホロニカル・アプローチから、ホロニカル心理学が生まれました。

世界は、ゼロ・ポイント(あらゆる意識や万物がまだ絶対無の状態、大乗仏教だと「空」)から創造されていると言われます。ゼロ・ポイントから誕生する世界が、今、この瞬間でも、時々刻々と新たな世界(万物や出来事)を創造し続けていると考えられます。その意味では、私たちの自己の存在も創造的世界の一要素として創造され、いずれ死んで創造的世界そのものになるといえます。

世界は、ゼロ・ポイントから創造され続け、その世界によって私たちも創造されていると気づきさえすれば、すべてがあるがままにひとつであることを実感・自覚できます。実感と自覚が特になくても、無心になって生きている時などは、自己と世界との区分に関係なく、自己は世界に包まれながらも世界と一体となって生きているといえます。

しかしながら、普段、私たちの自己の意識は、もともとまったく同じ源泉からなる世界を、自分とは別のものの存在と錯覚しがちです。自己は、もともと同根だった世界を自己以外のものとして自己自身から追い出してしまうのです。世界を自分から独立した別の世界と非自己化した途端、自己と世界との関係は途切れてしまいます。この断絶は、自己と世界の間の生命力あるつながり感まで失わせてしまいます。

自己が何かを意識した途端、自己と世界は不一致となり、自己が何も意識していない時には、自己と世界が一致し、両者がつながるといえるのです。

このように、私たち人間は、絶え間なく自己と世界の不一致と一致を繰り返している存在といえます。

世界と自己の不一致は、「苦悩」をもたらします。 苦悩が積み重なると、さまざまな心的症状や心的問題をつくり出していきます。

自己と世界の不一致による苦悩の累積によってつくり出された心的症状や心的問題は、脳の神経活動、行動、感情、思考、意思、愛憎、人間関係など、実にさまざまなところにあらわれてきます。しかも、頑固な心的症状や心的問題になればなるほど、自己と世界のミクロレベルからマクロレベル至る関係に複雑な悪循環パターンをつくり出しています。

しかし、頑固な自己と世界の悪循環パターンも、“こころ”のある層やある次元の自己と世界の悪循環パターンに注目し、それを新たな観点から適切に見つめ直すことさえできれば、より自己と世界の一致を目指した新たな人生を創造することも可能です。

そのためには、自己と世界の悪循環パターンを、安全かつ安心して、適切に観察できるような場が必要となります。

適切な観察とは、一見、鳥からの観察のように思われがちですが、別に鳥瞰的俯瞰とは限りません。むしろ、“こころ”の多層多次元にわたって、もっと自由無礙な自己と世界の開かれた対話が可能になればなるほど、新たな自己と世界の関係を幾多も発見・創造することができます。その結果は、もともとの自己と世界が一致することの実感と自覚を深め、かつ普段、自己と世界が不一致になってしまった時でも、より一致する方向に向かっていくような生き方をごく自然に発見・創造できるようになります。

ホロニカル・アプローチは、自由無礙の俯瞰によって、より自己と世界が一致していく生き方を探求する臨床心理学的方法といえます。

ホロニカル・アプローチは、非連続的に生成消滅する無限の点から無限の球までの世界を自由無碍に俯瞰することによって、自己自身を含みすべての事象や出来事が無限のホロニカル関係(縁起的包摂関係)にあることの実感と自覚を促進する方法なのです。

 

注:大乗仏教では「空」、禅では、「無心」、老子では、「無名」、井筒俊彦では「意識と存在のゼロ・ポイント」、 西田幾多郎では、「絶対無」ともいわれています。

※詳しくは、心理相談室こころ室長 定森恭司著の「ホロニカル・セラピー:内的世界と外的世界を共に扱う総合的アプローチ」(遠見書房,2015)、または、定森恭司・定森露子共著の「ホロニカル・アプローチ:統合的アプローチによる心理・社会的支援」(遠見書房,2019)を参照ください。