
ホロニカル心理学が、苦悩は創造の契機というとき、苦悩と向き合って、それを乗り越えれば、創造的な人生が待っているというトーンとは少し異なります。
苦悩のまっただ中にある時こそ、何が支えになり、何が大切かが一層明確化し、その体験によって視野が広がり、危機にあっても、より創造的な人生を発見・創造することができるという意味です。
しかし観察主体が、不快な出来事や気になる出来事ばかりに拘泥し、適切な観察距離を取れなくなってしまっては、不快な経験を消化統合して、これからの人生に生かすことができません。それどころか観察主体が、視野狭窄状態になって観察対象に埋没してしまっては、なかなか自力では抜け出すことが難しくなってしまいます。
全体性との関係性を失った部分への視野狭窄的拘泥は、創造的な人生の明らかな障壁となってしまうのです。
大切なことは、苦悩のまっただ中にあっても、いい出来事、いい感じ、いいスポットは、今・ここに、いつでも見つけられるということへの目覚めです。
私たちの観察主体は、悪いものばかりでなく、いいもの、その間にあるものなど、多様性にアクセスし、それらを統合するような潜在的な力をもっているのです。
そうした創造的な潜在的能力を顕在化させるためには、自由無礙な俯瞰を促進するような場が必要です。ホロニカル・アプローチはそうした安全で安心できる場づくりと自由無礙な俯瞰を促進するアプローチの一つといえます。
ポイントは、視野狭窄的に部分に拘泥する状態から抜け出すための、自由無礙な俯瞰を可能とする安全で安心できる場が必要になるのです。
また新しい生き方を創発するような転換点となるポイントが多層多次元な“こころ”の働きのどこかに必ずあるのです。観察主体と観察対象(自己と世界)の悪循環パターンから転換し、新しい自己と世界を創造することを可能とするような観察主体と観察対象の創発ポイントがあるのです。そうしたツボを、安全で安心できる場で、被支援者と支援者が共同研究的に協働しながら模索することを可能とするようなアプローチが大切となるのです。
新しい自己を自己組織化するような創発ポイントは、神経生物学的基盤をもっていると考えられます。自己は、本来。物心一体で心身一如的存在と考えられます。そのため観察主体と観察対象の関係性の変容といった心的変容も、物質的次元では、神経生理的変容と密接につながっていると考えられるのです。また変容が心身一如的な変容になればなるほど、変容の加速度が増すと考えられるのです。
苦悩の渦中にあっても、まさにそうでない世界も同時にあることへの実感・自覚が解放感をもたらし、その解放感が創造的な人生の歩みを可能にするといえるのです。