適切な変容を促進する心理社会的支援とは、支援者が被支援者に対して、一方的に治療・指導・教育・助言をしようとする行為によってはもたされません。むしろ、被支援者と支援者との協働作業によります。協働作業を通して、その都度、その都度、個別的により適切な生き方が発見・創造されるといえます。しかもこうした協働作業には、生きづらさをどのように考えるかをめぐって、被支援者と支援者の所属する文化やその人の信念などが深く影響しています。
「抑うつ状態」ひとつとっても、脳の神経生理学的反応によると考えるのか、重要な対象の喪失によると考えるのか、度重なる心理・社会的ストレスによる心身耗弱によると考えるのか、気持ちや気合いの持ち方ひとつの問題と考えるのか、悪霊による憑依現象と考えるのか、信心の怠慢による神・仏による懲罰と考えるのかなどは、所属する社会集団の社会・文化的な価値観などの文脈によって著しく異なってきます。
ホロニカル心理学では、多層多次元にわたる“こころ”の現象においては、ある層及びある次元の変容は、強弱の差があるとはいえ、常に他の層及び他の次元の変容を弁証法的に引き起こしていると考えています。情動や気分など神経生理学的な変容は、ボトムアップ的に思考の枠組みや価値観・倫理観などの実存的自己観の変容に深く影響していると考えられるのです。またその逆に、実存的自己観の変容は、神経生理学的レベルの変容に、トップダウン的に深く影響していると考えているのです。
したがって、適切な変容を促進する心理社会的支援とは、被支援者と支援者との出あいの直接体験を通して、多層多次元にわたる適切な自己の自己組織化を弁証法的に促していると考えられるのです。