ノンフィクションフィクション:「沈黙の中にある声 ― ある不登校の娘(秋子)をめぐって」(1)

AIで作成

※ノンフィクションフィクションとは、実際の事例を幾つか組み合わせ、その本質を失わないようにして創作した架空の事例を意味します。

*登場人物*
父親:会社員(42歳)。厳格な性格。
母親:パート勤務(39歳)。感情の起伏が激しく、不安定。
娘(秋子):中学3年生。不登校となって8ヶ月。
父方祖父:同居、元教員(68歳)。価値観が古く、家族内で影響力をもつ。
相談室:公立の教育支援センターに併設された相談室
相談員(M):ホロニカル・アプローチで対応する臨床心理士(女性)

#1 両親面接
午後2時。春の光が窓から差し込み、カーテン越しに部屋の空気が柔らかく揺れていた。相談室の丸いテーブルを挟み、父と母が座っている。両親の間には、目に見えない壁のような距離感があった。

相談員Mが、穏やかな声で話し始める。
「今日はお二人に来ていただきありがとうございます。娘さんのこと、ご心配なことも多いと思います。まずは、これまでのことを少し教えていただけますか?」

沈黙ののち、乱れた髪と疲れ切った表情の母が重い口を開く。
「…もう8ヶ月になります。あの子、突然、『学校行けない』と言い出して…。最初は怠けてると思って叱りました。でも、全然変わらなくて…最近は部屋からもあまり出てこなくなって。私、どうしていいかわからないんです。近くの心療内科で秋子を連れて診てもたったら起立性調節障害と言われて、それで、毎日、薬を飲んでいますが一向に変化がなくて・・・友だちに話したら、児童精神科のいい先生がいると聞いて、秋子に行ってみないといったら、顔をおおって泣き出してしまって・・」と、母の目が潤んでいる。

父はややうつむきながら、腕を組んでいる。
「俺は仕事もあるし、できるだけ普通に接してるつもりだ。けど、あいつは返事もしない。俺の顔を見たら余計ふさぎ込み、俺を避けているように感じる。」

Mは、2人の言葉を、それぞれ簡単に要約しながら軽く頷きながら、
「・・という感じで娘さんに両親なりに添おうとされているんですね。でも、上手くいかない感じなのですね。ところで、お二人の間で、娘さんへの対応について話し合われることはありますか?」

父と母が、同時に相手を見る。だが、すぐに視線を外す。先に母が口を開いた。
「話そうとすると、いつも喧嘩になるんです。父さんは『甘やかすな』『もっと厳しくしろ』って…。でも、私はもう限界なんです。怒ると、私も壊れそうになって…」

父が苛立ったように言う。
「限界?娘をここまでしたのは誰なんだよ。あんたが何でも言うこと聞いて、好きにさせたからだろ。俺が口出そうとすると『やめて』って…家で俺は居場所がないよ。」

母は唇を噛んで黙り込む。部屋に沈黙が流れる。

Mはゆっくりと間を取りながら、
「お互いに、娘さんのために必死になってこられたんですね。でも、それぞれのやり方や感じ方がすれ違ってしまって、お互いが苦しくなっている感じのように見受けられます。」

父が小さくため息をつく。
「最近、親父(祖父)とも言い争いが多くて…『昔の子どもはもっと根性があった』とか言われると、腹が立つ。でも、俺もどうしたらいいかわからない。」

母が絞り出すように言った。
「このままだと、家族が壊れてしまいそうなんです…あの子だけじゃなくて、私たちも…」

【Mの連想】
・家族全体に緊張と断絶が広がっている。
・父親は「役割」を背負いながらも娘とつながりがもてていないと感じているのか。
・母親は「共感」しようとしすぎて共倒れになりかけているのか。
・両親の対立の根底には、対話不足による互いへの理解の欠如と未処理の感情がある印象。

・面接中、両親が言い争いになりかけると、M自身が沈黙したくなる感じになるのは、秋子の立場にMが立たされるからか?

Mは、こんな連想を浮かべながら、
「お二人に、お願いしたいことがあります。秋子さんのことを考え、それぞれの意見をいうとき、『私はこう感じている』というふうに、自分の今の内面の感情や気持ち(内我))をまずは言葉にしてみませんか? せめて、今日、この場だけでも。」

父と母は互いを見た後、また視線をそらした。
「…私は、怖いんです。娘に嫌われることが。声をかけても無視されて…あの子にとって私は“いないほうがいいんじゃないかって、思ってしまう。」(母)

父はそれを聞き、少し目を伏せた。
「俺も…正直、怖いよ。あいつの中で、俺は“怒鳴るだけの親父”でしかないんじゃないかって。どうすればいいか、本当にわからない。」

Mは、そっと二人の間にお茶を置く。
「今のお二人の言葉を、もし秋子さんが聞いたら…どんな気持ちになるかなあ?」

父と母は、しばらく黙ったまま、少しだけ体の向きを互いに向け直した。

この面接後、夫婦合同面接が月に一度継続されることになった。秋子に関しては、Mから、
「秋子さんには、両親から2人で相談室を訪ね、しばらく通うことになったことことを伝えてください。そして、次回、もし、一緒に相談にいく気持ちがあるなら、一緒に行かないかと、誘ってみてください。この時、もし、秋子さんが、来室を渋ったら、じゃあ、お父さんとお母さんの2人で相談に行ってくるねと、伝えてから来室ください。予測はできませんが、秋子さんは、来室後のご両親の変化を肌で感じてから、はじめて相談室への関心をもたれるかも知れませんから・・」

続く