
第3回の続き
*登場人物*
父親:会社員(42歳)。厳格な性格。
母親:パート勤務(39歳)。感情の起伏が激しく、不安定。
娘(秋子):中学3年生。不登校となって8ヶ月。
父方祖父:同居、元教員(68歳)。価値観が古く、家族内で影響力をもつ。
相談室:公立の教育支援センターに併設された相談室
相談員(M):ホロニカル・アプローチで対応する臨床心理士(女性)
#4 4人家族が再び一つになる日
午後3時。夏の陽光が差し込む相談室。これまでの面接では見られなかった“もう一つの椅子”に、やや緊張した面持ちで祖父Sさんが座っていた。隣には、穏やかさをたたえた父、少し緊張気味だが柔らかな表情の母、その隣に、ほんの少し背筋を伸ばした秋子がいた。
相談員Mは、開口一番、穏やかな口調で言葉をかけた。
「本日は、4人そろって来てくださって、ありがとうございます。Sさんが来てくださったことで、家族の中に新しい風が吹くかもしれません。」
祖父は少し戸惑ったように口を開いた。
「……いやぁ、ワシなんかが来て、ええのかと思ったがな……最近、家の空気がちょっと違ってきて……気にはなっておったんじゃ。」
Mは、両親と秋子の同意を得て、これまでの経過の概略と前回のサイコモデル図を祖父に見せます。すると、しばらく沈黙が続きますが、その壁を破ったのは秋子でした。
「……おじいちゃん、朝の“声”がちょっと怖かった。……びっくりしちゃって……。」
その一言に、祖父の顔がわずかに歪む。無言の時間が、数秒流れる。
続けて母がやさしくつなぎます。
「私も、同じ気持ちでした。けど、それを“言っていい”って思えるようになったのは、最近なんです。」
父も続く。
「親父の“役目”って、たぶん“家を守ること”だったんだろ? でも……今は、“守り方”を一緒に考えてもいい時代なんじゃないかって、俺たち、話してた。」
M:「Sさん、ご自身では“どんな気持ち”で朝、声をかけていたのですか?」
祖父:「……正直に言うと、“あの子がダメになる”と思うてな。ワシの時代は、学校にいけないと人生ダメになる”というにが当たり前だった。……ワシは、それを娘や息子にもやってきた。」
秋子が、静かに言う。
「でも、おじいちゃん。今はちょっと違うかも。私、自分のペースで“やれる”ようになってきてる。」
祖父は、うつむいた。
M:「Sさん、“起こす人”から、“息子家族を見守る人”へ。“命じる人”から、“声をかけられる人”へ。」
祖父は、しばらく考えた末、秋子の方を見て、少し照れたように言った。
「じゃあ、明日からは……“起きたらワシが、おはようと言ってもええか?」
秋子が、初めて笑顔でうなずいた。
「じゃあ、言ってみるか。」
母が涙ぐみながら、笑う。Mは、
「新しい朝のはじまりのようですね。」
父も、ほっとしたようにうなずいた。
M:「今日は、“祖父の声”が、“指示”から“願い”になった日ですね。それは、ご家族が“再び一つになる”ための、大きな一歩だったと思います。」
祖父が、ぽつりと言う。
「……ワシも、学ばせてもろうた。家族って、“変わっていける”んやなぁ。」
4人の間に、温かな沈黙が流れていた。そこには、かつてとは違う“居場所”の気配があった。
(Mの連想)
・祖父の参加によって、世代間の価値観のギャップが可視化され、あるがままに俯瞰された。
・秋子の“自分で語る力”が家族の再構成を牽引した。
・祖父の“リタイアの尊厳”と“関係性の再役割化”は、家族関係の構造転換を意味する・今後、祖父の新しい位置づけの定着がカギか。
サイコモデル図
– 青:秋子(娘)
– 緑:母
– 赤:父
– 灰:祖父(S)
– 実線:支配的関係性(過去)
– 点線:変容中の関係性
– 矢印:影響の方向
– 左側:家庭内心理空間
– 右側:朝の時間帯におけるストレス推移(グラフ)
続く