
ホロニカル心理学が「それ」に向かって適切な自己が自己組織化されると述べるとき、それは「それ」に到達することを目的化したり、理想像として掲げることを意味してはいません。
むしろ、自己と世界が出あう場において、両者が相対立しながらも統一・統合を志向することによって、自己と世界がより適切に自己組織化されていく——その限りにおいて、自ずと「それ」に向かう、という意味です。
自己と世界の関係がホロニカルな関係として成立している限り、「それ」に向かう動きが生まれます。逆に、ホロニカルな関係が保てないとき、自己と世界は対立を増幅し、その溝を広げ続けてしまいます。
もし「それ」を実感・自覚すること自体を目的化したり、理想とするなら、それはもはや臨床心理学の領域を離れてしまいます。同様に、「それ」の普遍的な理(ことわり)を究明し、理想化することも臨床心理学の営みからは外れます。臨床心理学において重要なのは、自己と世界の出会いとせめぎ合いの中から、人がより生きやすくなる道を見出し、創造することに寄与する点にあります。
自己が自己として生きようとするとき、世界や他者、万物との対立は避けられません。しかし、自己が、「それ」になることは、自己がかけがえのない個でありながら、そのまま、いずれ「それ」になるということを意味します。
自己と世界は、矛盾しながらも一致を求め、歴史的な時間の中でせめぎ合いを重ねながら、適切な関係を形づくっていくのです。
個にも世界にも完全に吸収されないそのせめぎ合いの境界にこそ、「それ」に向かう動的プロセスが生成し続けているといえるのです。