これからの児童福祉の展望

日本の児童虐待相談件数は統計開始の1990年度(平成2年度)が1,101件です。それに対して、2021年度(令和3年度)全国225か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は 207,659 件ですから、ここ30年余で、189倍近くの増加です。そしてこの間、子ども家庭福祉の領域においては、虐待死が発生する度に、1つのストーリーとして、「子どもの安全を確保する」というスローガンの元に、「子どもと家族の意思を尊重することの大切さを忘れ、子どもを家族から分離する保護主義的な対策」が、虐待防止法制定以降、社会的な風潮としてできあがってしまいました。

しかし、このシングルストーリーは、同じような流れにあった虐待対応の先進国と言われてきたイギリスやアメリカでは、すでに破綻しつつあるようです。

児童福祉の現場の実態は、次のようなものです。エビデンスを強調し、かつ法的な手続きやマニュアルが厳密化すればするほど、支援者と被支援者の合意によるオーダーメイドの対応が難しくなり、支援内容が形式主義化し、注意喚起による指導というパターナリズムが蔓延してきているというものです。しかも支援対策の充実化は、虐待の加害者・被害者にとっては、支援者の行為が上から目線と感じ、懲罰的児童保護システムへの恐怖と混乱へとつながってきてしまっています。

都市部では、地縁血縁による地域コミュニティは弱体化し共助的絆を失っており、人と人の関係は無縁化社会に突き進んでいます。そんな中、国民のひとりひとりが子どもの健全な発達を思う子遣り文化は形骸化し、児童相談所ばかりに虐待対応を求める社会的風潮が常態化しています。今日の児童相談所の職員は、「助けに来てくれた人でなく、勝手に来てしまった人」になってしまいました。

そればかりか、地域社会は、子どもへの不適切な扱いを目の前にして、子どもの保護を理想化して、子どもとその家族の意思に反する家庭分離を求める声ばかりが増大しています。しかし、児童相談所の虐待通告に対する対応は、そのほとんどが地域処遇ですが、在宅での支援を膨大な数にのぼる子ども家庭支援を地域関係者の協力がなくてはとても不可能です。しかし、ここに明らかに矛盾が生じます。家庭での支援を意識する地域関係者でない限り、家庭分離を求める地域関係者に、子どもとその家族の意思を尊重した子ども家庭福祉に対する協力を求めることにとても無理が出てきているのです。

しかし、虐待対応における家庭分離型の保護主義的な対応だけでは、すでに制度的に破綻しています。ここは原点に立ち返って、子どもと家庭を取り囲むコミュニティによるサポートシステム構築を目指すことが大切です。地域コミュニティで相互支援的包摂関係による「新たな社会的絆の創成(共生的社会の共創)」を目指す必要があるのです。こうした方向にへのホロニカル・アプローチの実践もあります。

児童福祉施設や里親利用などの社会的養護は、一義的な社会基盤の整備のもとで充実させる必要があるのです。

こうした観点にたつとき、地縁血縁関係者に代わって、「また会いたくなるような関係」を構築し、関係機関に小さなコミュニティのキーパーソとなることも可能にしている名古屋市家庭訪問型相談事業は、とても効果的な支援と思われます。