ホロニカル・アプローチ:心理社会的統合の進化とその実践


1980年代初頭、半田児童相談所での校内暴力集団への取り組みは、ホロニカル・アプローチの中心的パラダイムとなる「ホロニカル」の創発の原点となりました。この時代、学校内外で暴力を振るう生徒たちに対して、適切な対応を模索する中で、統合的観点を持つ新たな理論と技法の必要性が浮き彫りになりました。

アカデミズムで知られた理論や技法は、その背景にある哲学や考え方から多くを学ぶことができましたが、児童福祉現場の実態とはかけ離れており、応用や適用は困難でした。そこで、既知の理論や技法を批判的に統合し、実践の試行錯誤の中で新たなアプローチを創出することが求められました。これが、ホロニカル論という新たなパラダイムの構築へと繋がったのです。

ホロニカル・アプローチは、内的世界を扱う心理的ケアと外的世界を扱う社会的ケアの統合を目指しました。生活の場を重視し、学校、保育園、警察、福祉事務所、民間団体との連携を通じて、多層多次元な問題を抱える地域社会や家庭を支えるための有効な場づくりを実現しました。このアプローチは、問題行動を繰り返す生徒たちの適切な観察主体形成を内在化させ、彼らの自己発達を促進する助けとなりました。

また、病理モデルに代わる統合的観点に立脚した現在の見立て論は、校内暴力の中心人物であった番長Aの行動に関する洞察から着想を得ました。Aの行動は、当時の高度成長時代の影の問題を含む多層多次元の複雑な問題の一切合切を包摂すると見立てられ、ホロニカル論的観点からの見立ての原点となりました。こうした観点は、面接室での診察室を包摂した心理社会的な統合的アプローチによる適切な場づくりと、複雑な現象の俯瞰を重視するす新たなパラダイムへのシフトをもたらしました。

1980年代の実践は、その後、統合的心理療法としてのホロニカル・セラピーの提唱へと自発自展し、更に2019年には心理療法を超えた心理社会的支援としてのホロニカル・アプローチへと自発発展していきました。現在、このアプローチの中心にあるのは、「自由無礙の俯瞰」です。これは、内的世界と外的世界にわたる多層多次元な現象を、無批判・無評価・無解釈の立場から観察することを可能とする「場づくり」を意味します。

ホロニカル・アプローチは、生きづらさを契機に、支援者と被支援者が共に無批判・無評価・無解釈から俯瞰(最終的には「IT(それ)」の立場からの俯瞰)しながら、生きやすい人生の道を実感・自覚的に基づいて発見し創造していく自己意識の発達を促す支援法といえます。