ホロニカル・アプローチによる妄想的言動への対応(ノンフィクションフィクション)

ABCモデル

ノンフィクションフィクションとは、いろいろな事例を組み合わて創作された事例のことを意味します。

心理相談室に、統合失調感情障害(注)と診断された20代の青年Kが、医師の紹介で母親と一緒に訪れました。彼は投薬中ですが、隣人から監視されており、自分への侮辱が聞こえると確信しており、「あいつは私がいつも寝ていて仕事をしないと侮辱する」と訴えます。母親に確認すると、「確かに声が微かに聞こえるけど、何を言っているのかは私にはわからない」とのことです。Kは不満そうな表情で押し黙ります。すると、まさにこのやりとりの最中の出来事です。相談室の建物外から会話中の女性たちの笑い声だけが聞こえてきます。すると、Kは「あいつらは、今、私のことを馬鹿にした」と確信的に語りだします。

そこでカウンセラーは、Kの言動を否定せず、彼の気持ちを落ち着かせるためにグラウンディングの試行を提案します。深呼吸を求め、足の床への接触、ソファーへの触れ、部屋の温度や空気の流れを感じ取り、最終的には面接室内の小物や観葉植物に注意が向くよう誘います。すると、グラウンディングの最中にも、再び外から女性たちの笑い声が聞こえます。が、Kは今度は笑い声をそのままスルーし、Kは徐々に「今・ここ」に安全と安心を感じるようにして落ち着いていきます。

カウンセラーは、グラウンディング中の笑い声について触れます。するとKは、「ただの笑い声だった」と、何事もなかったかのように語ります。しかしこの急激な変化に母親は驚きを隠せませんでした。

Kの幻聴は面接中、消失します。が、再び帰宅すると、調子の悪い時に隣家からの幻聴が聞こえてきます。しかし、Kは、今度その後、幻聴が出てくると、お気に入りの音楽を聴く、ラジオをつける、部屋の中の観葉植物を見る、なぐり書きをするなど、どんな方法であっても、気持ちが少しでも落ち着くものに意識を切り替えること身につけていくことができました。その結果、幻聴の頻度が減り、持続時間も減るようになっていくことができました。

 

解説:妄想を抱える人々に対して、ホロニカル・アプローチがしばしば行う、被支援者の適切な観察主体C点の確保のために行う技法です。妄想や幻聴などは、ABCモデルのA点への極度な執着といえます。しかし、当人の生きづらいことを共有し、できるだけ意識を他に切り替えることを身につけていくと、A点以外の体験様式を経験した分、「ひょっとすると思い違いなのかも」という疑いが確信に変わってできるだけでも、それまでの迫害的な恐れからの身構えが和らぐような感じです。しかし、まだ科学的根拠はありません。ただ同じような臨床的な経験は何度もあるのは事実です。

ホロニカル・アプローチは治療を目指すものではありませんが、生きづらさに対してより行きやすい道をクライエントと共に探求します。ABCモデルに代表されるこのアプローチでは、固定された自己違和的体験から離れ、適切な観察主体としての自己を確立することを促します。これにより、自己と世界一致する方向へと進み、妄想の確信性が和らぐことが期待されます。どうもオープンダイアローグでも同じような変容が確認されているようです。

注意)統合失調感情障害
精神病症状と気分症状が併存する場合に考慮されるときの精神医学的診断名。