南方曼荼羅(偶然と因果の統合)

現実世界は、多様な現象が交錯し、実験室や研究室で得られる因果論的法則だけでは完全には説明できません。また、未来も予測不可能です。現実世界は、普遍的再現性を求める科学因果論を超えた偶然性を含んでいると考えられます。明治時代の鬼才であり天才でもある南方熊楠は、当時の東西の知識を取り入れ、粘菌などの研究を通じて、近代科学の因果と偶然を統合した独自の曼荼羅的宇宙観を描き出しました。この宇宙観は「南方曼荼羅」と呼ばれています。

粘菌は、ユニークな生物です。湿った胞子から発芽してアメーバとなり、普段はバクテリアを食べていますが、飢餓状態になると、遺伝子がスイッチオンしてある伝達物質を出しはじめ、お互いの化学物質を通じたコミュニケーションによって、中心点に向かって集合して全体的な組織になります。そして、やがて全体的な組織から胞子が飛び散って原点に戻るというサイクルを繰り返している動物とも植物ともつかない小さな生命体です。南方熊楠は、この小さな生命体に、動と静、生と死という相矛盾するものが表裏一体になっている宇宙の普遍的な真理を見出したと言われています。

 

粘菌は、部分が全体を包摂し、全体が部分を包摂するというホロニカル論的な生命活動を象徴しているといえます。