「自我同一性」から「自己同一性」の時代へ

心理学でいうアイデンティティという概念は、精神分析家のErikson,E.H.によって厳密に理論化されていますが、アイデンティティを「自我同一性」と和訳するのか「自己同一性」と和訳するのかでは、まったく異なるニュアンスになるとホロニカル心理学では考えます。

自我」に同一性を求める立場は、自我といわれる主体の意識に、斉一性を求め、常に統合的で一貫したものを求めることになります。誰を前にしようと、どんな場面であろうと、言動の振れ幅が少なく、常に一貫した態度を取れることが安定した大人というわけです。ところが、ホロニカル心理学では、こうした自我の確立のためには、社会の方も安定しており、価値観の変動が少なく、自己が自己自身に対する評価と他者が自己に下す評価の間の一致が得られることが前提条件になると考えます。簡単にいえば、社会の常識を身につけた人が、「自我同一性」を獲得できるわけです。

ところが加速度的に高度情報化社会が進み、指数関数的に社会が変動していく時代にあっては、価値観や常識の多様化が進み、人と人の間や社会の場においては、価値観や常識を共有したりする基盤が失われ、人と人の関係は、ますます無縁化・孤立化してきてしまっています。

実は加速度的に変動する社会にあっては、各々がこれまでのような自我の同一性にこだわることなく、むしろ相手によって、あるいは場所によって、自分の振る舞いを柔軟に使い分ける方が社会性のある生き方に変容してきいます。

「自我同一性」ではなく、「自己同一性」の確立が時代のテーマになってきています。