ケースフォーミュレーション(1)

心理社会的支援においては、例えば、生物・心理・社会といった観点といったように被支援者が個別に抱える多様な問題の成立・維持に関する仮説の生成・検証を行うケース・フォーミュレーションの大切さが強調されるようになりました。しかし、この観点の運用においては、次のようなことに留意する必要があります。

そもそもケース・フォーミュレーションの強調の歴史的背景には、一つの現象に対して、あまりに特定の学問領域における見立てや権威のある学説が強調されすぎたり、逆に学問の世界での専門性の差異化が進み過ぎることによって、物事を全体的・統合的に理解する観点が失われがちになってきていたという社会的背景があると思われます。同じ問題に対して、専門性が異なると、仮説の生成・検証、妥当性ばかりでなく援助の方法すら異なるため、むしろ専門的な知識によって心理社会的支援の現場が分断されてきたという現実があります。この弊害をいかにして乗り越えるかが課題となってきたことは至極当然といえます。

ホロニカル心理学では、学問領域における専門性の分断の壁を乗り越えるためには、専門言語によって語られる仮説そのものを、もともと全体的で・統合的な現象の根源に立ち返りながら、自分の専門性の限界を超えて、より全体的で統合的な新たな立体的仮説を生成していくことが重要と考えています。

同じひとつの現象を、生物・心理・社会の専門的言語によって語り続けることによるディスコミュニケーションの壁を超える覚悟がいるのです。自らの専門領域による仮説に、さらに他の領域の専門性からの観点を取り込み、他の専門性の智慧を包摂した新たな仮説を脱構築的に生成していくことが求められるのです。そして他の専門性との触れあいによって新たな仮説を再編成しながら生成しあっていく専門家たちによって、複雑に絡み合った現象に関するさらなる新たな仮説を共創していく姿勢が求められているのです。共創的観点を失うと、ケースフォーミュレーションの場すらが、これまで以上に学問的な覇権争いの場と化す危険性があるのです。

生物の中に心理・社会のテーマが包摂され、心理の中に生物・社会のテーマが包摂されており、各専門領域が他の専門性を取り入れながら古い専門性を脱構築しながら、ケースフォーミュレーションをしていく姿勢がなければ、ケース・フォーミュレーションの場自体が、それぞれの学問の前提としているパラダイムの差異による対立を促進してしまう危険性をはらんでいるといえるのです。

専門性が異なると同じ室内ゲームをしていると思っていたら、実は、お互い将棋・碁・チェスをしているほどの差異が横たわっている現実の壁にぶつかってしまうのです。みんなが自らの専門性の限界の枠を、未だ未知の智慧と出会うことによって、新しい室内ゲームを共創する姿勢が大切になっているのです。