統合とは

ホロニカル心理学に基づくホロニカル・アプローチは、既存の理論や技法の統合に成功した心理療法や心理社会的支援ではありません。また、既存の理論や技法より優れていると主張するものでもありません。ホロニカル・アプローチを提起する本意は、既存の心理臨床に関する理論や技法の差異は、観察主体と観察対象の組み合わせの違いとして統合的に理解可能ではないかという新しいパラダイムの提案にあります。

いかなる観察主体から、何を観察対象として、どのように観察するかの組み合わせの違いに注目すれば、たとえ“こころ”の捉え方の各パラダイムが異なっていても、差異を包摂する新しいパラダイムからの統合化が可能と思われるのです。そもそも“こころ”の捉え方をめぐる観察主体と観察対象の組み合わせの差異が、自己再帰的に異なる心理社会的支援に関する理論や技法を生み出していると考えられるのです。

自らの理論や技法に信頼を置く専門家が、他の理論や技法を自らに統合化することに抵抗し、自らの理論や技法の唯一性に拘泥している限りは、統合化は不可能です。そうした専門家は、統合化の必要性を実感することもないでしょう。自分の宗教を信奉している人が、他の宗教を必要と感じない感覚と同じです。しかし、他の理論や技法に自らの理論や技法の限界の打開策を求めたり、さらなる充実化のヒントを得ようとする学究的な人ならば、各理論や技法の異なるパラダイムの統合の必要性を実感しはじめます。するとそうした流れが、自ずと新しいパラダイムの創発につながっていくのです。心理社会的支援に関する理論や技法の差異は、同じような室内ゲームに見えても、将棋、チェス、碁、オセロにも似た根底となるパラダイムの差異が横たわっているのです。基盤となる理論や技法の差異を理解した上で、新しいタイプのゲームを開始しないと混乱が起きてしまうのです。異なる理論や技法を支援が行き詰まる度に、平行活用したり、他の理論や技法に一貫性なく乗り換えるだけでは、心理社会的支援の基盤の一貫性が失われ不安定となってしまうのです。異なるパラダイムに基づく心理社会的支援の理論や技法を取り入れるためには、差異の統合化を可能とする新しいパラダイムの構築が必要になるのです。

多層多次元にわたる複雑な生きづらさを抱えた人々に対する心理社会的支援の実践から生まれたホロニカル・アプローチは、そうした新しいパラダイムの一つにならないかと提案しているのです。

システム論的観点から家族関係や人間関係などの外的対象関係に焦点を合わせるのか、客観的に記述可能な行動・認知を対象とするのか、過去の親子関係などの経験と記憶から形成された表象などの内的対象関係を扱うのかは、多層多次元な“こころ”の顕れの、どの層、どの次元に、被支援者と支援者が共にどのような観察主体から、どのように観察しようとするかの差異として統一的に記述できるのです。

ある層、ある次元に焦点化しているだけでは、適切な変容が見込めなくなった時には、一度、これまでの観察主体と観察対象の関係に囚われることなく、同じ心的現象に対して、新しい観察主体と観察対象の関係を構築するための新たな視点からアプローチすると、全く新たな変容が創発されていく可能性を高めることができるのです。

ホロニカル心理学の立場からは、多層多次元なある部分における変容は、他の層、他の次元の変容をもたらすと考えられます。家族関係の変容は、深層レベルでの変容をもたらし、その逆もいえます。

頑固な生きづらさを抱える当事者ほど、多層多次元にわたる悪循環パターンを抱えています。それだけに心理社会的支援者は、自らの理論や技法に当事者を合わせるのではなく、自らの限界をわきまえつつ、自分は、多層多次元にわたる悪循環のどの層のどの次元の、どの問題に焦点化し、変容を促進した方がもっとも持続可能な達成見込みのある変容を可能とするかという視点から自らの支援方法を選択する必要があると思われるのです。