積極的働きかけの是非

あるクライエントの箱庭の写真
ある箱庭

カウンセリングマインドの浸透とともにアドバイスや介入を極力回避しようとするのは、クライエントの主体性と自己決定を尊重するという価値観が基盤にあるためです。しかし、権威主義的態度でもってアドバイスや介入するのでもなければ、クライエントの自己と世界をめぐる内的対象関係や外的対象関係が、より一致する方向に向かう限り、カウンセラーからの働きかけは、これまで考えられてきた以上に積極的でもよいのではないかと考えられます。

「無条件の肯定的配慮」「自己一致」「共感的理解」など、傾聴と受容を重視するカウンセリングのための条件は、クライエントは自ずと主体的な気づきよって変容していくという理念の上で成り立ちます。しかしこの理念が成り立たつためには、クライエント自身に適切な観察主体がある程度確立していることや、気づきの基盤となる他者と共有可能な社会的体験があることが前提となります。

しかしながら、価値の多様化が加速度的に浸透した現代社会にあっては、クライエントの社会体験自体が貧弱だたり狭隘だったりします。またクライエントとカウンセラーが内在化している価値観の差異も拡大しています。こうした現実は、カウンセラーが、あらゆる価値から中立である態度を維持することの困難化を招き、傾聴や共感的理解が困難な作業になりつつしています。そのためカウンセラーがクライエントの言動に表層の表面的レベルで共鳴的な傾聴に徹してしまうと、カウンセラーは理想化されても、逆にカウンセラー以外の人の存在価値が切り下げられてしまう危険すらあります。こうしたほどよい距離を失った同情的対応では、カウンセリングによって、ますますクライエントの対人関係が悪化してしまいます。

そこで危険性を十分に承知し、かつ支援者の言動がもたらす被支援者への影響を含んで、支援者と被支援者との外的対象関係と被支援者の内的対象関係の関係性の変容プロセスを外在化したり可視化するなどして、クライエントがより適切な高次の立場からクライエント自身の“こころ”の内外の対象関係を俯瞰が可能になるならば、これまでの言語中心の対話によるカウンセリングとは異なる展開を期待できます。内的対象関係や外的対象関係の外在化や可視化は、カウンセラーとクライエントの共同研究的協働関係の絆を強化します。また共同研究的協働関係が樹立している限りは、カウンセラーがクライエントに対して積極的な提案をすることは、案外、自在になります。ただしカウンセラーの提案はあくまで提案であり、改めてクライエント自身が自らの直接体験との自己照合によって、自己決定していくのを保障するのはこれまでのクライエント中心の考え方と同じです。またクライエントが、カウンセラーの提案を受け入れた場合の決定は、共同責任としての意味をもつと考えられます。

こうしたクライエント/カウンセラー関係は、従前の被支援/支援者という関係を超えて、共に生きづらさを回避できない人生という場を、親密な他者同士として生き抜いていく関係に変容していきます。