共創的支援の事例(2):「アンガーマネジメント」の受講勧奨に抵抗を示したある母親

AIで作成

※以下は、共創的支援の事例(1)の続きです。

スーパービジョンは、外部スーパーバイザー、児童福祉司B、児童心理司C、及び相談員Aさんと、児童福祉司Bの上司が参加して実施されます。

経過の概ねを了解したスーパーバイザーからは、子どもの問題行動の主たる原因が、あたかもすべて易怒性の高い母親Xの言動にだけ帰属するような因果論的見立ての限界が指摘されます。

その後、スーパービジョンでは、新しい見立てとして、親子の争いの背景には、マルトリートメント(避けるべき不適切な子育て)の世代間連鎖の影響、元夫のDVの影響、母親Xも子どもYも発達トラウマ性の問題を抱えている可能性など、多層多次元にわたる複雑な要因の絡み合いが検討されます。また、複雑な要因の絡み合いの結果、親子共に問題解決手段が暴力・威嚇・威圧・否定というパワーに頼ってしまうという問題点の改善の必要性に及びます。

そこで、親子関係の修復や改善のためには、トラウマ反応による悪循環を親子同時の面接の場で伝え、母親Xと子どもYの易怒性も、気質や性格や人格の問題ではなく、トラウマ反応による過覚醒、過敏性からくるものとして説明することの重要性が検討されます。また、新たなアプローチとしては、親子関係が激しく対立した場面を、ホワイトボードなどを使って具体的に再現(場面再現法)し、その時の解決手段が、パワーによらずもっと適切な方法になるべく、当事者と支援者が共同研究的協働関係を構築しながら、「一緒に模索する」ような支援法が検討されます。

スーパービジョンを通じて、児童福祉司Bと児童心理司Cは、普段、重篤なケース(緊急に子どもを家庭から分離し保護する必要性の高いケース)への対応に追われすぎるあまり、相談の原点を失念してしまっていたことに気づきます。親子関係の加害者・被害者関係ばかりに意識がとらわれてしまい、親子関係の修復や変容ための相談支援の必要性という観点が欠落していたのです。そして、「外在化された問題に関して当事者参加型の共創的支援の場を構築する」ことを決意します。上司もまた、改めて児童相談所の相談機能充実と相談員Aのサポートの大切さを意識し、これまでの指導助言型の対応と異なる新しい共創的支援のアプローチの試行を支持します。

スーパービジョン後、スーパービジョンに立ち会った相談員Aも、親子関係の修復や改善を目的とした当事者と支援者の共創的関係による開かれた対話の場の必要性を痛感し、再度母親Xに合同面接を提案する決意になります。(続く)

 

解説:昨今の児童相談所は、膨大な数にのぼる虐待通告への対処に忙殺されています。その結果、新しい人材を採用しても、若手の人材養成すら手がまわらず、どうしてもマニュアル化された手続きを形式的に遵守していくのが精一杯になりつつあります。児童福祉法に定められた行政機関としての児童相談所は、①相談機能、②一時保護機能、③児童福祉施設等への措置機能、④市町村援助機能が運営指針で定められています。しかし、実態は、②③ばかりの業務に追われ、①④の機能が十分に果たせなくなりつつあります。その結果が、虐待問題に対して、行政的権威を背景としたパターナリズム的注意喚起型の指導助言やプログラム提示型の支援になってきています。しかし、それではなかなか効果がでないどころか保護者との対決ばかりが増加し、当事者も支援者も疲弊しつつあります。「当事者参加型の共創的支援」は、児童相談所の①④の機能強化です。また、地域社会が虐待通告を中心として保護主義的に著しく傾斜していく中、危機家族に対する在宅支援強化のための新しい打開策と位置づけることができます。「当事者参加型の共創的支援の場づくり」のパラダイムは、うまくいけば、保護者や子どもが同席に合意する限り、もっと地域関係者まで広げていく包摂型社会の場づくりの可能性をもっています。