ホロニカル論による変容論

ホロニカル論で考える部分とは、要素還元主義的発想で考えるような全体のための一要素なのではなく、他の部分やもっと大きな全体との相互関係の中で、それ(部分)だけでも一全体としても自律的に振る舞うものと考えます。また、それでいながら、逆に一全体としても振る舞う部分は、一方では、もっと大きな全体の一部としても振る舞います。

結局、部分と全体は、縁起的包摂関係にあると考えられるのです。また、各部分同士も縁起的包摂関係を持ちながら全体を構成するため、部分と全体の関係は多層多次元にわたる重々無尽の縁起的包摂関係の世界を構成することになります。華厳経が描く世界観と同じになります。

ホロニカル論的観点からすれば、多層多次元な顕れをする“こころ”のあらゆる層とあらゆる次元にたとえ小さな変容であっても、必ず他の層や次元の事象事物の振る舞いに影響すると考えられます。複雑性科学でいうバタフライ効果の観点と同じです。究極的には、この世界にあるすべては、たとえミクロなものマクロなものを問わず、すべての振る舞いがすべての振る舞いに影響を与えているし、与えられていると考えられます。

したがって心理・社会的支援においては、多層多次元にわたる頑固な悪循環パターンにあっても、ある層ある次元のある局面のたとえ小さな変容でも、やがてその影響は他の層・他の次元に波及していくと考えることが可能です。しかも変容には、氷が水に、水が蒸気に突然変化するような創発ポイントがあります。そこでそうした変容ポイントのようなものを発見すれば、変容をより加速させることも可能と考えられます。

ホロニカル・アプローチでは、たとえどんな小さな心的症状や心的問題にあっても、そこには多層多次元にわたる悪循環パターンが観察主体と観察対象をめぐる悪循環パターンとなって包摂されていると考えるため、心的症状や心的問題をめぐるたとえ小さな局面の変容であっても、その変容が新たな観察主体と観察対象の関係を構築するものである限り、その変容の実感と自覚は「アッハ体験」のようなインパクをもって、他の層・他の次元をめぐる観察主体と観察対象の変容を加速度的に促進することが可能と考えています。