心理社会的支援における連携

心理社会的支援における他機関連携は、何らかの目的があってするものです。目的があいまいなまま連携そのものが目的化してしまうと、超多忙時代では、時間調整だけでも消耗し負担になるだけの結果に終始します。

また他機関連携は、連携を必要と感じた者(機関等)が、多職種・他領域に対して、その意図とともに依頼するものであって、連携を半ば強制するような指示によるものであってはなりません。もし、指示によって実施されるならば、連携ではなく、会を主催する者が最終責任者としての役割を担っている会議といえます。

有効な連携とは、会議の有無に関係なく、当事者(被支援者)が一番信頼を置いている人と、それ以外の関係者が、必要な時に必要な情報の相互交流が可能となることによって、お互いの信頼関係がさらに深まり、結果的に当事者の利益に一層資することになるとき、もっとも効果的なものになるというのが実践感覚です。

多職種・他機関の関係者がそれぞれもっている情報を交換し、必要な情報を出し合うことによって、当事者の利益に資するような対応を、より立体的に描くことが大切です。この時、大切なことは、事例に対する陽性・陰性などの参加者同士の微妙に異なる感情的のズレに細心の留意を図り、できるだけケース理解に伴う情調が一致する方向を模索することです。

心理社会的支援では、当事者参加型の連携がもっとも理想的です。しかし、どうしても当事者の参加が望めない場合には、当事者と直接的な関わりを持つ支援者は、情報交流の度に、具体的な情報提供の内容について丁寧に当事者の同意を得ることが必要です。支援開始時に多機関との情報交流に関する同意を得ているから、その都度、本人の同意を得ることなく、何を話してもよいということにはならないことに注意を払う必要があります。逆に当事者の同意を必要としない連携の場合には、被支援者や関係者に自傷・他害の恐れや虐待の疑いなど、守秘義務の解除に関する十二分な法令・通達などの根拠が明らかになっていなければなりません。

また当事者の同意を得ている場合にあっても、もし当事者が参加していないならば、当事者が、あたかもその場に同席しているかのように配意しながら、情報交流や事例検討に臨む姿勢が倫理として求められます。

「今日は、A君の支援のために、皆さんがお持ちの情報や智慧を出し合って、A君への支援をより確かなものとしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。また時間があれば、今後どうするかについても具体的に話し合いたいと思います。なお、今日の話し合いについては、A君の同意を得ております」と会を招集した人がまず会の目的の大枠を説明することが大切です。

事例をまったく知らず、かつ連携の場に初参加の場合には、何か発言をすると、過剰な期待や誤解を招くのではないかと身構えてしまうものです。また何か情報を提供する時、一体、誰がこの事例のキーパーソンで誰が今後主体的に関わるのか不明になっていると、自分や自分の所属する機関の役割をどのように理解し、どのような立場で一体何を話したらいいのか混乱するものです。こうして連携の場では、参加者全員が一つの発言をめぐって微妙な駆け引きが暗黙のうちに起きてしまうのです。

こうしたさまざまな問題を防ぐためには、連携の会の持ち方の研究が必要なのです。
まずは、会のはじめに、誰がどのような目的や動機で集まってもらったかの趣旨を説明することが大切です。最後に、会の要点を箇条書きにしてまとめることも大切です。会の進行役が連携の会の取り回しになれていること、あるいは訓練を受けていることが必要です。当事者が不参加の場合は、当事者がもっとも信頼しているキーパーソンが誰かが明確だと連携はスムーズに進むものです。キーパーソンが不在または不明の場合は、誰がもっともその可能性が高いか探ることが大切です。キーパーソンが明確になったら当事者とキーパーソンをバックアップする形で会を運営していくことが望まれます。

当事者またはキーパーソンを中心として、社会包摂的ネットワークを構築することがポイントとなるのです。当事者やキーパーソンが連携してよかったと実感できることが大切といえるのです。