「自然の二元分裂論」の問題

ホワイトヘッド

「自然の二元分裂論」とは、物質からなる原因的自然を第一の基体的性質とし、色や匂いといった性質をその属性とするような諸理論を指します。心の働きを脳という物質からなる第一の基本的性質とし、感情・認知・行動などをその第二属性とするような心理学の考え方もこれにあたります。しかし、このようなパラダイムは、「自然と心の関係という大問題を、人間の身体と心の相互作用というちっぽけな形態に変容してしまった」とイギリスの数学者で哲学者であるホワイトヘッドが嘆いたような悲劇を、自然科学や心理学の世界にもたらしています。

ホロニカル心理学では、自己と世界の出あいの出来事である直接体験に、多層多次元に識別される諸属性の関係性がすべて包摂されていると考えます。しかも直接体験には、すべてが主客の区分によって多層多次元に識別される以前の自己と世界の一致の体験も含まれていると考えています。

直接体験においては、第一も第二の区分はないと考えられます。何か固有名詞をもつ本質的存在があって、その属性としての諸要素があるのではないのです。心(または脳)があって、感情・認知・行動がその属性として識別されるとは考えていないのです。

直接体験には、主体によって、他とは区別される価値や意味をもった多層多次元にわたる属性が諸属性の関係性とともに見いだされると考えているわけです。

しかも、自己と世界も絶え間なく変化しています。その意味では、主体が直接体験を通じて多層多次元な属性を認識する行為も、世界をただ受動的に観照しているのではなく、自己と世界の流動的関係を、絶え間なく創造している行為といえるのです。

絶えず新たな自己と世界の関係を創造すること、それが自己が生きるということにほかならないと考えられるのです。