明治期以降、日本の心理学は主として西洋近代の学問体系を基盤として発展してきました。しかし、今日の複雑化した人間理解の要請に応えるためには、従来の心理学原論そのものを再検討し、脱構築する必要があるのではないかと考えています。以下では、その主な論点を五つの観点から整理します。
① 西洋中心パラダイムの限界と、東洋思想を含む新たな原論の必要性
現在の心理学原論は、西洋近代の哲学・科学の流れを基盤としており、無心・無我といった東洋思想が扱ってきた「自己と世界の境界が希薄化するレベルの経験」について十分に射程に入れていません。ホロニカル心理学の立場からは、西洋的自我観と東洋的無我観を統合的に扱う新しいパラダイムの構築が求められると考えます。
② 内的対象世界中心の枠組みから、外的対象関係を含む枠組みへ
従来の心理学原論は、個人の内的世界(内的対象、表象、感情など)を中心に構築されてきました。しかし、自己は常に世界との関係性の中で生成される存在であり、「自己―世界」間の外的対象関係の多層多次元を原論レベルで組み込む必要があります。これは、ホロニカル心理学が重視する「場としての関係性」理解が必要と考えます。
③ 観察主体の固定化からの脱却:無我を含む可変的視座
“こころ”を観察する際、従来の心理学は「我」あるいは「超越論的自我」といった固定的な観察主体を前提とする傾向が強くあります。しかし、観察主体そのものが可変であり、場合によっては無我の視点を含む柔軟な観察枠組みが必要です。ホロニカル心理学では、観察主体を固定せず、自由無礙な俯瞰」を前提とした心理学原論が求められると考えます。
④ 精神現象の説明にとどまる原論の再考
現在の心理学原論は、精神現象の記述・説明に重点が置かれています。しかし、心理現象は精神的側面だけでなく、身体性・環境・関係性・文化的文脈など、多層的な要因が絡み合う複合的な現象です。精神現象の説明に限定された原論では、現代の心理学が直面する課題に十分に応えられない可能性があります。
⑤ “こころ”を「場の働き」として捉える原論の構築へ
“こころ”現象は、精神現象や物理現象として説明できる側面を持つ一方で、どちらにも還元できない領域を含んでいます。それは、仏教思想でいう無自性や哲学でいう絶対無に喩えられるような、「言詮を超えた場の働き」として理解する必要があります。
この観点からすると、従来の心理学原論よりも、西洋と東洋を包括し、場としての“こころ”を扱うホロニカル心理学のような原論の再構築が求められるのではないでしょうか。