言葉

アイヌの伝承に登場する小人

「神は『光あれ』」と言われた。」とは、旧約聖書の有名な天地創造に関するものです。

天地創造は、超感覚的な人格者による聖なる意志に基づく行為と古代人は感じていたことを意味する文ですが、神そのものは、「言葉」の背景に隠されたものとして直感されていたことを示す定型文でもあります。井筒俊彦が「聖なる言葉の人格化や神格化に向かう傾向が人間の心にある」(井筒、1956)と指摘するように、古代人にとっては、「言葉」自体が呪術的な圧倒的な力をもっていたと考えられるのです。

その意味では、現代人は、科学の言葉に囲まれる中で、古代人のように森羅万象に霊魂的な働きを感じるようなアニミズム的感覚は、幼少期を除外して徹底的に批判されてきたことによって意識のうちから切り離されてきています。しかしながら、死を眼の前にする時、夜見る夢の中で、変性意識や精神病様体験を通して、あるいは吉凶占いや様々な迷信やそれに付随する祈祷やお祓いの儀式を通じて、現代人にあっても意識の表層からほんの少しでもいざ深層に向かわざる得ない機会に遭遇すると、古代人のような呪術的な魑魅魍魎の世界が一気に拡がってくることには注意をする必要があると思われます。

私たち現代人の生活には、まだまだ呪術的な深層世界に満ちあふれており、そうした深層を基盤として意識の表層において合理的な科学的思考や理性的判断が執り行われていると考えた方が実態に近いと思われます。

参考文献
井筒俊彦(1956;安藤礼二監訳.小野純一訳,2018).言葉と呪術.慶應義塾大学出版会,p.33.