内的世界と外的世界を共に扱う統合的アプローチの重要性

主だった臨床心理学の理論と技法の多くは、日常生活から離れた非日常的な診察室・面接室・実験室での実践と研究を基にしながら発展してきました。

しかし、自己は、どの時代においても場所的存在です。自己はに生きています。生きている場を離れた自己のイメージは、考え出された空想の自己であり、実際に場に生きている自己とは異なります。場所的自己は、自己を取り囲む場の一切合切の矛盾を、自己内に抱え込む存在といえます。その結果、一見、個人的な現象に見える苦悩も、場の抱えている矛盾を抱えて込んでしまっているといえます。生きづらさや苦悩の要因を、単純に自己内と自己外を分断することは危険と考えられるのです。

したがって自己が生きる生活の場の変化は、そのまま自己の苦悩の質と量の変化に直結してきます。

現代社会は歴史的にみれば、高度情報化社会が地球規模に浸透し、価値の多様化・多元化が加速化する時代です。しかし価値の多様化・多元化を統一する働きは不在のままの加速化です。単位社会ごとに、価値観を共有し、標準・普通という共通感覚として感じていたこれまでの時代とは異なり、誰もが、外的世界の統一性なき多様化・多元化の中で、不安を抱き、先の見通せない未来への不確実性を感じとるようになってきています。こうした外的世界の不統一性は、内的世界においても統一性をもてず自己同一性のもてなさへの苦悩を産みだしてきています。

こうした“こころ”の内外の変容は、生活の場から離れた診察室・面接室・実験室で培われてきた従前の内的世界を中心に研究してきた臨床心理学の限界を明らかにしだしています。これからは、内的世界も外的世界も共に扱う心理社会的な統合的アプローチへのパラダイムシフトが必要になってきているのです。

ホロニカル・アプローチは、まさにこうした時代の変化の中で出現してきた虐待、非行、発達障害、不登校・引きこもり、いじめ・いじめられ問題に、心理社会的支援の立場から対応することを求められた児童福祉現場の実践から創発されました。

“こころ”は、多層多次元な現象となって顕れますが、一方では統合性をもった一つ現象です。この相矛盾する“こころ”の現象の特徴に着眼するとき、“こころ”の研究に関する共通言語の不在による混乱も、“こころ”の働きの統合性の実感・自覚の立場から見直すことによって乗り越えていく可能性があると考えます。

“こころ”の研究は、“こころ”の働きそのものの統一性・統合性を抜きにして、要素還元主義的因果論的パラダイムから記述されるべきではないと考えられるのです。例えば、うつ症状は○○の不足が原因とわかったと、決定論的なニュアンスで語るのでなく、○○が他の層・他の次元と複雑に絡みあいながらも一つの要因として影響している可能性がある、といった記述が学問的科学的な態度だと思われるのです。

“こころ”の現象は、要素還元主義的因果論のパラダイムではなく、“こころ”の統合性や統一性をもった全体性の働きと部分の働きの複雑な現象として常に捉えていくことが大切と思われるのです。