意味の深みへ

井筒俊彦(1985)は、「意味の深みへ」という著書を通して、従前の言語学では、「シニフィアン(能記:記号表現)」と「シニフィエ(所記:記号内容)」という概念を使って「意味」について論考してきたものの、そうした理解だけでは辞書的な表層的水準に留まるとし、唯識哲学の「熏習(くんじゅう)」「種子」の概念を駆使し、もっと「深層」次元での言語のもつ意味化のプロセスを極めていこうとします。

こうした探究は、ユングやラカンなどにもみられますが、やはり西洋の言語学の主流は、東洋思想の観点からすると意識の表層水準での意味の生成論が多いといえます。ポストモダンとされる潮流の中にある心理学や社会構成主義にあっても、言説のもつ社会・文化的文脈の差異の影響を扱うものの、イメージやファンタジーなどの非言語的水準とか感覚運動の次元など、内的世界のより深いレベルでの現象は、ほとんど扱われていないといえます。

意味を外的世界での対話を通じて生成生滅するものであり、社会的文脈を抜きにした辞書的なもの、普遍的なものとして捉えるだけでは一面的です。意味の生成消滅のプロセスには、外的世界における対話ばかりではなく、内的世界における内的対話の影響も深く関与しいるとホロニカル心理学では考えています。

外的世界の対話は、直接体験が観察対象となって、観察主体との間での内的対話となって意味化されているのです。こうした意味化のプロセスは、個人レベルだけなく、個人を超えた水準でも行われ、歴史・文化を形成していくと考えられます。

参考文献:井筒俊彦.井筒俊彦全集第8巻.慶應義塾大学出版会,2014年.