多様な見立てが錯綜する心理社会的支援の現場

ある男子高校生が、背中を丸くして教壇を抱え込むようにしていました。その姿を見たスクールカウンセラー(SC)は、「勉強への限度感を身体が表現していることを意味しているのでないか」と解釈します。ところが一緒に目撃した担任は、「ただ疲れているだけでは?」と想像し、やはり同じ場面を目撃した養護教諭は、「腰でも痛いのかな?」と考えます。

このように同じ現象ひとつとっても、実に多様な見立てが錯綜するのが現場の実態です。

こうしたとき、昨今よく行われるのは、ケースフォーミュレーションといって、SC、教師、養護教諭などの関係者が、一堂に会して、ケース検討を通じて、いろいろと見立てることです。しかし、この段階での検討には、大きな欠点が一つあります。それは、当の本人に誰も何も尋ねていないということです。そこで、このケースでも、男子生徒の気持ちを、それぞれがそれぞれの立場で確めてみようということになりました。

ところが結果は、さらに複雑化しました。本人の応答も、誰にどのように聞かれるかで、その返事に差異が出てしまったのです。

この事例では、あまり信頼関係のできていないSCが、「どうしたの?」と尋ねると、「ウザい」と瞬殺されました。生徒との関係ができている担任が、「どうしたの?」と聞くと、「勉強がわからない」と語りました。ところが、時々関わりを持っていた養護教諭が、「どうしたの?」と聞いたところ、「もう疲れた。何もやる気がしない。もう死にたい」と答えたのです。

大切なことは、誰が正しい気持ちを聞き取り正しい見立てをしたかではなく、どのような立場で、どのように働きかけると、どのような反応が返ってくるのかを協働的に研究していく中で、もっとも適切と思われる対応法を関係者で模索していくことにあります。それが、連携であり、チーム対応といえるのです。