「エス」と「IT(それ)」(1)

森羅万象は、生成と消滅を繰り返しています。森羅万象の一つである自己も、究極的には、無と有の生成・消滅を繰り返しているといえます。

森羅万象は、ゼロ・ポイント(絶対無、空と同じ)と矛盾する関係にあるといえます。

ゼロ・ポイントから、ほんの少しでも何かが自存・自立しようという揺らぎの意志をもった瞬間、ゼロ・ポイントにおける絶対的一の楽園は破綻し、ゼロ・ポイントと何かは不一致の関係になります。いろいろある自己でも人間の自己の場合は、そうした意志を内在化し意識する自己として、自己組織化されてきたといえます。

自己は、自己をも包摂する全体的世界との一致を希求しつつも、個人(部分)として自己の自存・自立を求めて自己を自己組織化させることになります。

また人間の自己の場合は、自ら非自己化した世界を、自己とできるだけ再び一致する方向に変化させようとします。人間の場合の個性化とは、自己と世界の一致を求めて、自己及び世界を自己組織化する歩みといえます。

ホロニカル心理学では、自己が自己たらんとして自立・自存を希求するところに、ゲオルグ・グロデックが発見した「エス」が働くと考えています。「エス」は、自己と世界が不一致のときに必ず働く自己内の非言語的内的体験として自己自身に直観されます。しかし「エス」の働きに対して、もともとゼロ・ポイントには分化発展を促進する「エス」の働きとともに、森羅万象の多様化の自発自展を統一する力としての「IT(それ)」がホロニカル心理学では働くと考えています。

ゼロ・ポイント自体に、「エス」と「IT(それ)」といった分化・発展と統一といった相反する働きが包摂されていると考えているのです。

自己が自己自身を意識することのできる人間とは、「エス」と「IT(それ)」の矛盾による分化発展と統一による働きを自己自身に内在化し、相反する働きを意識できる存在といえるのです。そうした存在だからこそ、人間は、自己が自己自身を意識できると考えられるのです。自己による自己自身による内省・分析・洞察も、「エス」と「IT(それ)」の働きによって成立すると考えられるのです。