ホロニカル関係(13):ホロン

哲学者アーサー・ケストラー(1905 – 1983)は、全体からみると部分だが、部分だけでも全体として振る舞う機能をもつようなものを、「個(on)が独自に機能しながら全体(hol)とも調和しているもの」ということで「ホロン」となづけました。

ホロニカル心理学では、「ホロン」同士が相互包摂的性質をもつ場合を「ホロニカル関係」と概念化しています。そして、“こころ”は、部分と全体がホロニカル的関係を形成しながら多層多次元な現象となって顕れると考えています。

ある部分を「ホロニカル的存在」とすると、ホロニカル的存在には、他のホロンや全体が包摂され、その影響を受けつつも、ひとつの自律した全体的ホロニカル的存在として振る舞う性質があります。心理学との関係でいえば、ある行動、ある認知、ある感情、ある意志・・・なども全体から識別されたホロニカル的存在といえます。しかし、ここで大切なことは、どのホロニカル的存在ひとつをとっても、他のホロニカル的存在から切り離して独立したものとして取り扱うことはできないということです。

また“こころ”の全体の振る舞いも、要素還元主義的な局所的な存在による相互作用だけでは説明困難です。Aというホロニカル的存在と、Bというホロニカル的存在は、相互に自律的振る舞いをしながらも、相互包摂的相互限定の関係にあるからです。しかも、“こころ”の全体は部分の総和を超えた特徴をもっています。“こころ”の局所的なホロニカル的存在同士の相互作用による変容は、予測できないような“こころ”全体の変容を創発しているのです。

局所的なパターンを超えた全体的秩序を構成する新たなパターンが創発され、そうした新たな全体的な振る舞いが、各ホロニカル的存在に自己再帰的に包摂され、さらに新しいホロニカル的存在を自己組織化しているのです。

いわゆる無常の動的な生成の“こころ”の世界は、こうした自己言及的自己再帰性をもった自己組織化する世界といえます。

こうした部分と全体の関係は、21世紀になって盛んになっている複雑系科学で積極的に取り上げられてきた非線形理論的なモデルと相似的です。

心理学は、因果論的な線形理論的な近代科学の論理では馴染みませんが、“こころ”の現象を複雑系のパラダイムを使って考えていくならば、生きた人間の“こころ”を扱う心理学としてとても有効と思われるのです。ホロニカル心理学では、自己組織化、カオスの淵、複雑系、などの概念を使って新しい“こころ”のモデルの構築が可能ではないかと考えています。